第14話 連れてけ!
一方、敵の敵は味方! などとアダムから思われていた当のマルタはと言うと......
1時間前の事、
「1人で行くなんて、飛んでも無い! 我々がお供します!」
共の者達に諌められていた。
「う~ん......でも大勢で行ったら目立っちゃうしな......」
太后ベーラの命により、『ポパイ大陸』に上陸を果たした途端、早速頭を悩ませていたのである。アダムを見付けて殺す為にやって来た事は、今更言うまでも無い。
男ばっかの大陸だけに......確かに怖いものは有る。かと言って、大勢で行ったら目立ち過ぎるし。全員余所者の顔だしね......結局悩んだ末、あちきは折衷案を取る事にした。
「よし、分かった。ただし共する者は4人だけだ。あとは大人しく船で待ってろ」
そんなこんなで、あちきは選りすぐりの強者4人だけを引き連れて、未知なる大陸の中へと足を踏み入れて行ったのである。
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
特に道を歩いてた訳じゃ無い。『獣道』って奴なんだろう。何となく枝が折れ曲がって、草が踏み潰されてるから道っぽく見える。そんな『獣道』を無為無策に歩き始めた訳だ。
『オリーブ大陸』へ行った時とは、また全然違う緊張感があちきを包み込んでいる。やっぱ自分が『女』である事が、余計なプレッシャーになってるんだろう。ダメだ......自分が女である事を忘れなきゃ、この大陸の男達と対等に渡り合えない......
無理矢理目付きを鋭くし、肩を怒らせ、形ばかりの男を演じるあちきだった。ところがそんな気持ちとは裏腹に、自分が女である事を痛感させられるような事態が巻き起こってしまう。
まずい......膀胱がパンパンになって来たわん......こんな時、男ならきっと『ちょっとごめんよ』などと気安く声を掛けて、ズボンの紐を緩めればいいんだろう。そんで後ろ向いてシャ~......で終わりだ。
残念ながら見てくれを変えたところで、身体の構造まで男に変わった訳じゃ無い。と言う訳で、
「4番行って来ま~す!」
などど『暗黒』を唱えたあちきば、スタスタスタ......少し離れた木の影へと身を隠したのである。
「4番って何だ?」
「バースか?」
「掛布だろ?」
「岡田だ」
「そりゃ5番だ」
などと会話してたか定かでは無いが、共の4人はマルタの『暗号』を全く理解していなかったようだ。
一方、当のマルタはと言うと、程よい木陰に身を隠し、剣を置いてズボンの紐を緩めた。そこで一旦周りを見渡してみた。
さすがに上司のトイレを覗き見するバカは居ないだろうと思いつつも、何分慣れて無いからやたらと落ち着かない。目をキョロキョロさせながら、慎重にシャ~......用をたし始めた訳だ。
何か視線を感じるんだけどな......やっぱ落ち着かないわ。
すると、
ガサッ、ゴソゴソゴソ......
ん? 何か近くで音がしたような? まぁ、気のせいか?
すると今度は、
ザッ、ザッ、ザッ!
間違い無い! それは明らかに人の足音だった。
あいつら......『4番行って来る』の意味が分かって無いのか? ああ、まだ途中なんだけどな......全く!
あちきは、イライラMAXの中、素早くズボンをたくし上げ、振り向き様に怒鳴ってやった。
「このデバガメがっ! 落ち着いて用もたせんじゃ無いか!......ん? えっ? なんで......」
気付けば、10人もの男達があちきを取り囲んでる。しかも......どいつもこいつも見た事の無い顔ばかりだ。更に共の者達は、地に膝を付き、後ろ手に縛り上げられてるじゃないか!
しまった! 慌てて剣に飛び付こうとするも、一歩及ばず取り上げられてしまった。
「お前ら、見た事の無い顔だな? そうか......臥龍村の兵隊だな?! よし、連れてけ!」