第13話 覚悟しろ!
そんな人の気配にいち早く気付いた俺達は、一斉に木の影、草の影、岩の影に隠れた訳だ。俺達は丘の上に座し、それで今からやって来るその者達は丘の下。獣道をゾロゾロと歩いて来るのが見える。
頭数はちと向こうの方が多そうだけど、喧嘩をするなら地の利を得たこっちの方が圧倒的に有利だ。策など何もいらない。号令一過、一気に丘を駆け下りれば一瞬で勝負はつくだろう。
「アダム様、奴らは憎き自警団です。一気に蹴散らせてしまいましょう!」
まぁ......思った通りの反応だ。ジャックは横で鼻息を荒くしている。剣に手を掛け、今にも丘を駆け下りていく勢いだ。そんなジャックを、俺が諌めるよりも早く、
「ジャックさん! アダム様は無益な殺生はしないと申されました。その事をお忘れですか?!」
モニカさんが諭してくれた。全く頼りになるぜ......
「ムムム......」
モニカさんに諭されて、ジャックは口を十文字に閉じてしまう。
ゾロゾロゾロ......
ゾロゾロゾロ......
やがて自警団の連中は、俺達が頭の上で隠れている事も知らずに、騒々しくやって来た。
「さぁ、さっさと歩け!」
バシッ!
「い、痛ってぇ~! あちきを殴るな!」
見れば、行列の中盤を陣取る5人は、ロープで数珠繋ぎにされている。今自分の事を『あちき』と叫んだその者以外は、全て厳ついプロレスラー擬き。ただ『あちき』だけは、なぜか女性ホルモンビシバシだった。
そばかすだらけのそいつは、髪をショートにまとめて必死に男面してはいけど、俺は騙されないぜ......間違い無く女だ。でもまぁ、余計な事に首を突っ込むのは止めておこう。ここは静かにやり過ごす......それが一番の得策だ。
「おいジャック、戦うだけが『男の道』じゃ無いぞ。敵を前にしてやり過ごす事も一つの戦法だ。モニカさんを見てみろ......落ち着き払って息を潜めてるだろ?......ん?......モ、モニカさん、どうした? 真っ赤な顔してブルブル震えちゃって?」
今褒めたばっかなのに、いきなり『あちき』が視界に入った途端、興奮し始めた。一体どうしたって言うんだ? すると......
「あ、あいつ......な、な、何しにやって来たんだ?......さ、さては、アダム様を!......ゆ、許さん......許さんぞ!」
ガバッ!
気付けばモニカさんは剣を手に仁王立ち。そして何を思ったか、急に小さな笛を手に持ち、それに力強く息を吹き掛けた。ピ~......!
すると......
バサッ、バサッ、バサッ......どこからともなく上空から羽ばたき音が......
「なっ、なんだ?!」
「大きな鳥がやって来るぞ!」
「あっ、あれは......間違いない! コンドルだ!」
バサッ、バサッ、バサッ!
「ガルーダ! いざ参る! マルタめ、覚悟しろ!」
「モニカさん、そうこなくっちゃ! ジャックもお供しますぞ!」
「お、おい、ちょっと待てって?! 何なんだこのコンドルは?! モニカさんのペット? それと......マルタ覚悟しろって......どう言う事なんだ?!」
正直、何が何だか分からなかった......突然現れたコンドルの事も、自警団に連行されてる『マルタ』なる男装女子の事も......
ただ一つだけ、状況を理解出来た事がある。それは今正に、戦いが始まってしまったと言う事だ。
「て、敵襲だ! 剣を抜け! 弓を引け!」
「ジャック様に続け!」
「「皆殺しにしろ!」」
あらら......マジかよ? 仕方ねぇな......よっこらしょっと。
馬に股がり、パッカ、パッカ、パッカ......丘を下りて行くアダムだった。
果たしてアダムは、
マルタを敵と見なすのか?
それとも、味方と見なすのか?
その答えは......
「敵の敵は......まぁ、味方って事だわな......」
だそうだ......