第11話 どこ見てりゃあいいんだ?!
「助けて......」
「怖いよ......」
「お父さん......」
正直、何度聞いてもこの声には慣れなかった。俺くらいの年頃の奴も居れば、まだイバンより小さな子供も居る。全員ここから逃がしちまおう! 何て衝動に駆られたりもするが、たったの2人だけじゃ100人にも及ぶこの子らを守り切れる訳が無い。無意味に死者を増やすだけだ。
本意じゃ無いけど、今は耐え忍ぶ時......でもいつか必ず君達を親元に帰してやるからな。もう少し辛抱しててくれよ......俺とジャックは断腸の思いで、耳に栓して先へと進んで行った。
やがて3分も歩いていると、遂に待ち焦がれたその場所へとたどり着いた訳だ。その者の姿を視界に捉えた途端、ジャックはは......
「モニカさんっ!」
タッ、タッ、タッ! 俺を置き去りにして、一目散に駆け参じて行った。
「あ、あなたは! 何でこんな所に?!」
深夜2時とは言え、こんな牢屋の中では中々寝付けなかったんだろう。直ぐにジャックを見付けると、鉄格子にしがみ付く。
「さぁモニカさん、ジャックが助けに参りました。とっととこんな所から立ち去りましょう!」
一方、意気込むジャックに対し、モニカの表情は決して明るいとは言えなかった。
「有り難う、ジャックさん......でも私はまだここから逃げ出す訳にはいきません。なぜなら......」
ジャックの話では、俺を探す為に自らの意志でこの砦にやって来たと言う。俺を見付けるまでは、ここから出るつもりは無い......きっとその後に、そんな言葉が待っていたに違いない。でもモニカさんが探し求める俺は今ここに居る。だから、もうそんな必要は無い。
「俺ならここに居るぞ」
きっと、目を輝かせて『あっ、あなたは?!』などと昇天する事を期待してた訳なんだが......
「キャー、露出狂!」
途端に、両の目を閉じてしまった。いやぁ......パンツじゃ無くて顔見て欲しいんだけどな......
「モニカさん、ちゃんと目を開けてよく見てくれ。あなたの探していたこのお方の姿を!」
露出狂が何を言ったところで、変態の戯れ言にしかならない。ここはよく言ってくれたと、ジャックに感謝するしか無い。
「あたしが探してる人?......も、もしかして......ア、アダム様?! アダム様だぁー! でも何で......パンツ一丁?」
この際、俺に取ってパンツ一丁はどうでも良かった。問題なのは、モニカさんが今、口にしたその名前だ。『アダム?』......誰だそりゃ? 俺はオリバーだぞ。まぁ、少し前まではオリビアだったけどな......
「取り敢えず深い話はまた後で。まずはここを抜け出しましょう! ちょっとモニカさん、後ろに下がって」
「え、あ、はい......」
「それじゃあいきますよ。せ~の~、とうりゃあー!」
バキンッ!
コトコトコト......
ジャックが振り下ろした剣は、見事鉄格子に掛けられた錠前を、まっ2つに切り落とした。
ギー......
それは正に『ゴーレム国』空軍隊長モニカが、世に放たれた瞬間だったと言えよう。
............
............
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ブチュウ......ブチュブチュ。
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ブチュウ......ベチャベチャ。
「あのう......君達......何やってんの?」
「え、あ、す、すみません......つい......」
「ア、アダム様......こ、これは『主君』の前で、大変お見苦しいところを......」
唇を腫らすんだったら、2人だけの時にやって欲しいものだ。一体俺は、どこ見てりゃいいって言うんだ?!