第9話 そこにその者が居る......
深夜2時を回ったその頃、自警団砦正門の前では......
2人の老兵が、テクテクテク......重い足取りで巡察から戻って来た。
「砦外周、異常無しですわ」
「そうか、ご苦労だったな。おう、もう交代の時間だ。お前達は宿舎に戻って休むがいい。あとは俺達に任せておけ」
「かしこまりましたです......それじゃあ、お言葉に甘えて」
今砦外周の警備を終えたばかりの老兵達は、鉄かぶとに手を掛け、まるで顔を隠すかのようにして砦の中へ入って行こうとした。すると、
「おい、ちょっと待て」
門番の1人が突然そんな2人を呼び止める。何か不審な点でも有るのだろうか?
「どうかしやしたか?」
一方2人の老兵はと言うと、剣に手を添えている。よもすれば漲ってしまう殺気を、必死に圧し殺してるようにも見えるのだが......
「お前ら、見慣れん顔だな」
「へい、俺ら昨日まで厨房でコックやってたです、何やら人手不足とかで......外回りの仕事も大変ですわな。何ならあんたらもコックに転職したら如何か? 牛捌くのは面白いぞ。血塗れの内臓でお手玉するのが今流行りでな。フォ、フォ、フォ......」
「バカもんが! 誰がコックなんぞやるか。とっとと失せろ!」
「ヘイヘイヘイ、邪魔者はさっさと退散するです。フォ、フォ、フォ......」
ギー、バタン......難なく正門を通過する『老兵?』の2人だった。腰が曲がったそんな2人は、誰がどう見たって70過ぎの老人。しかし、その動きはやたらと機敏だった。それもその筈......
「ジャック、牛の内臓でお手玉するのが流行ってるのか?」
「んな訳無いじゃないですか。そんな事より......何であんな門番ごとき、さっさと切ってしまわないんですか? 我々の力だったら容易い事でしょう。誰も見て無かったですし......オリバーさんは優し過ぎますよ」
きっとジャックは、俺が臥龍村で村兵に剣を使わなかった事が頭に残ってるんだろう。今も然りだしな......『優しい』なんて言ってるけど、本当は、俺のやり方が甘いって言いたいんだろう。ちょっと違うんだよな......でもまぁ、今は説明してる時間も無いってか......
「無益な殺生は控えろ。今言える事はそれだけだ。分かったな」
「無益な殺生ですか......はぁ? 分かりました」
「宜しい。さぁ、牢屋は砦の中心部だ。さっさと進まないと夜が明けちまう。急ぐぞ」
「御意!」
スタスタスタ......
スタスタスタ......
夜中の2時ともなれば、さすがの『街』も静けさに包まれている。砦の外は部外者を遮断すべく厳重な警備が施されているけで、一歩砦内に足を踏み入れてしまえば、移動はことの他、容易かった。
とにかく自警団の兵は出入りが激しい。無謀な戦いを挑んで、しょっちゅう死んでるし、またそれ以上に志願して来る者も多い。まぁ、それだけ自警団の金バッチが美味しいって事なんだろう......
やがて、目の前に小高い丘が見えて来た。丘と言うよりかは、小さな山と言った方が、表現として正しいのかも知れない。俺がそんな『山』の少し手前で足を止めると、それに合わせてジャックの足も止まる。
「どうしました?」
「あそこだ」
「あそこの中に、モニカさんが居るのですか?!」
「そうだ」