第6話 ありがとよ......
「だから言ってるだろ! 盗賊集団は自警団の方だって!」
「う~ん、なるほどね......やっぱそう言う事か。実は俺もそうじゃねえかと思ってたところだ。テヤァー!」
カキン、カキンッ!
その者は一旦、剣で俺を押し出すと、「とうりゃあー!」再び剣を振り下ろして来た。そして、ガシッ! 再び力比べが始まった......
「俺はオリバー、昨日この大陸にやって来たばかりの余所者だ。だから教えてくれ。何で自警団の牢屋には、美形ばっかが捕らえられてんだ? それと、女も......」
「人身売買だ。それと今お前......女って言ったな?! てやぁー!」
カキン、カキンッ!
「とうりゃあー!」
ガシッ!
またしても、力比べが始まる。
「1人だけ『女』が居る。確か......モニカさんって言ったっけな? 人を探してるとか何とかって言ってたな」
「お前、モニカさんを知ってるのか?!......良かった......無事だったか......そう、あの方はな、人探しをする為にこの大陸へやって来たんだ。確か......額に大きなアザがある12才の青年って言ってたかな?」
「なっ、何だって?! 額に大きなアザだと?!」
「てやぁー!」
カキン、カキンッ! バサッ!
「し、しまった!」
「うっ......」
なんと、オリバーは動揺したのか、突然剣を持つ手の力を緩めやたのである。おかげで危うく俺はオリバーの顔面をまっ2つに切り裂くところだった。向こうもビックリしたと思うけど、一番ビックリしたのは俺の方だ。
でも一体......アザの話を聞いてオリバーは何をそんなに驚いたんだ? 紛いなりとも一騎討ちたるこの状況。剣を持つ手の力を緩めるなんて普通じゃない。なぜなんだ?
そしてこの後......俺は図らずも、その答えを見事知らされる事となる。俺の剣に切られたオリバーの前髪が、パラパラパラ......なんと! 微風に揺られ宙を舞っていたのである。
前髪無きその額を見て、俺は漸く悟った。モニカさんが探していた男が、このオリバーだって事を......
「モニカさんが、俺を探してたんだな?!」
おでこの大きなアザをさらけ出しながら、思わず叫び声を上げるオリバー......
そんなオリバーに対し、『その通りだ!』って正直に答えなきゃいけない事は分かってた。でもなぜだか俺は、その言葉を発する事に躊躇してしまう。『嫉妬』......もしかしたらそんな卑しき感情が、俺の心の中に宿っていたのかも知れない......
オリバーは『最強の戦士』でありながらも、未だ1人も村人を殺していない。それはこの者が弱き者に対し、『慈悲の心』を示した証と言えよう。
更に『悪』なる者は臥龍村の民に有らず、むしろ自身が所属する『自警団』であると言う事を、瞬時に看破した『鋭き慧眼』の持ち主でもあった。
『最強の戦士』『慈悲の心』『鋭き慧眼』......きっと俺は、そんな3拍子揃った若干12才の賢人に、嫉妬したんじゃ無かろうか。愛するモニカさんを取られるんじゃないかってね......一瞬とは言え、何とも情けない話だ。
でも俺だってバカじゃ無い。そんな腐女子の感情にいつまでも支配されてる程、落ちぶれちゃいなかった。直ぐに邪念を振り払い、
「そうだ、モニカさんはお前を探しにこの大陸へやって来たんだ! 何やら重要な話が有るらしいぞ」
男として当然の義務を果たした訳だ。するとオリバーはニヤリと微笑み、「ありがとよ兄弟......」俺の耳元でそう呟いた。