第5話 あれが盗賊集団の親玉?
「へっ、へっ、へっ......こんな所に隠れてやがったぜ。オリバー、でかしたぞ!」
なんとブルートの奴は、イバンの髪の毛を掴んで奥から引き摺り出して来てるじゃないか!
「ちょっとブルートさん、そんな乱暴に扱わなくても......相手は子供なんだから」
誰がそんなブルートを諌めたかと思えば、一緒に付いてきた小柄な自警団だった。
「うるせー、チョビ! 弱っちいくせにテメーは黙ってろ!」
「弱っちいだって?!......くっそう......」
やっぱ弱っちかったんだろう。いきり立っては見たものの、黙ってろと言われて直ぐに黙ってしまった。
「お、お父さん......」
「イ、イバンッ!」
俺がなだれ込んで来た事に気付いたその者は、やがてゆっくりと振り返った。そして剣を握る俺の目をじっと見詰め、静かに語り始める。
「よしっ、相手になってやろう」
気付けばその者は、壁に飾ってあった剣を手に取っている。素手には素手、剣には剣......きっとそんなとこなんだろう。
それにしても不思議だ......つい今しがたまでは全く俺を相手にしてなかったこいつが、何で急に俺と戦う気になったんだ? お前達の狙いはこの『悪の親玉』イバンじゃ無かったのか? 何かこいつ企んでるな......
でもまぁ、いいだろう.。一騎討ちはこっちから望んだ事だ。よくは分からんが、とにかくやってやる!
やがて、
ジリッ、ジリッ......
俺がジワジワと間合いを詰めて行くと、
ジリッ、ジリッ......
その者も間合いを詰めて来る。
スタスタッ......
俺が西の方角へ摺り足を見せると、
スタスタッ......
その者も西へと移動する。
距離にして凡そ2メートル......踏み込んで行くにはちょうどいい距離だ。この後、どちらかが1歩踏み込んだら、その時が死闘の始まりとなるであろうに。ところが、いざ対峙してみると......
その構えには全く隙が無かった。無闇に踏み込んだりしたら、真っ先に切り落とされちまうだろう。進むべきか、それとも、待つべきか......
俺が取るべき行動を決めかねているうちにも、いきなり戦いのゴングは鳴り響いたのである。きっと痺れを切らしたんだろう。
「ふんっ!」
その者は突然、剣を上から振り下ろして来た。それはあまりに正攻法であり、そしてその振りはあまりに大きかった。まるで自分の攻撃を剣で避けろと言わんばかりの大振りだ。
「くそっ!」
俺は咄嗟に剣を前に差し出し、バキッ! その攻撃を剣で防いだ。それで自ずと力比べが始まった訳である。ギギッ、ギギギギッ!......剣と剣がぶつかり合い、軋む不気味な音が村役場中に響き渡っていった。
その時、俺の真っ赤に火照った顔の10センチ先には、その者のクールな顔が......そしてなんと! その者は静かに語ったのである。それはまるで、親友と話すような口調だった。
「あれが盗賊集団の親玉? ただの子供じゃねぇか」