第4話 ギー、バタンッ......
「子供を誘拐するのが『悪』じゃ無いんなら、一体何が『悪』だって言うんだ?! 貴様には罪悪感ってもんが無いのか? 恥を知れ!」
「ん?......なんだと......子供を誘拐?」
すると途端に眉を潜め始めたその者に対し、突然横やりを入れて来た奴が居る。確かこいつは......思い出した。ブルートって奴だ。
「オリバー、そいつの言う事を信じちゃいかんぞ! 善人振ってるが、こいつらは盗賊集団だ。善人が『落とし穴』なんか卑怯なもん掘るか? ちょっと考えれば分かるだろ!」
するとその者は、俺の頭の先を何やら一心不乱に見詰めている。その先に有るものと言えば、今朝漁で水上げされたイルカしかいない。別にイルカごとき珍しくは無かろう......何をそんなに怖い顔して今日の夕食を見詰めてるんだ? 理由は分からんが、とにかく怒りに満ち溢れてる事だけは間違い無さそうだ。
やがて、その者はゆっくりと口を開く。思いの外、その声は低かった。
「もうお前に用は無い。親玉イバンはその建物の中だな? おいチョビ、俺に付いて来い。今から『悪』の根元を断ちに行く」
「え、あ、わ、分かった」
スタスタスタ......何とその者は、一騎討ちを挑んだ俺を無視して、村役場へと向かって歩き始めたじゃないか。余りに唐突過ぎるその者の行動に対し、俺は剣を抜く事も忘れ、背後から素手で戦いを挑んでしまったのだった。
「待てっ!」
俺の拳は無意識のうちに、その者の頭に手が伸びていた。村役場に入れたら終わりだ!......そんな焦りの気持ちが、全面に出てしまった愚かな行動だったと思う。すると......
「ふんっ!」
ガシッ!
バサッ!
「うわぁ......!」
なんと一瞬にして、投げ飛ばされてしまった。全く......情けない話だ......
「後ろから襲い掛かるなんぞは『盗人』のやる事。恥を知るべきなのはお前の方だ」
スタスタスタ......
ギー、バタンッ。
そして遂に、その者は村役場に足を踏み入れてしまう。もう『盗人』でも『悪党』でも、そんな事はどうでも良かった。1人の父として、俺は何が何でもこの若者を止めなければならなかった。
スタスタスタ......
もうお前の好きにはさせん! シャキーン! 俺は剣を抜いた。もう相手が丸腰でも構わない。背後から一文字に切り落としてやる! モニカさん......どうか俺を、そしてイバンを守ってくれ......
ギー、バタンッ!
俺が慌てて扉を開けると、その中では既に修羅場が始まっていたのである。
中に居合わせていた長老、下働きの者達は、揃って隅に固まり、為す術も無くガタガタと震えている。そしてブルートの奴は、なんと、今にも奥へ通じる扉を開けようとしてるじゃないか!
そっ、その中にはイバンがっ!
そして、ギー、バタンッ......