第12話 目の前に居た訳なのだから
あたしは一旦、呼吸を整えた。そして言葉を選びながら慎重に語る事を決めた。
「オリバーさんも知っての通り、この『ポパイ大陸』は『男』だけの地。そしてあたしは『女』だ。ゆえにこの地は、あたしが生まれ育った故郷ではない。
ある人を探しに、あたしはこの大陸へやって来た。自警団の砦内に居座っているのも、そのお方を探すが為。あなたの予測通り、囚われの身であっても、決して囚われてる訳じゃ無い。
運良くそのお方と出逢う事が出来たなら、早々にこの砦、そしてこの大陸から去るつもりだ。
今あたしがあなたに心の内を吐露したのは、あなたの心が自警団には有らずと信じたからこそ。どうかその辺を汲んで頂き、余計な口を開かぬよう、強くお願い申し上げる」
現時点では、そこまで語るのが精一杯だったと思う。あたしの探している人が誰なのか? 一体たあたしはどこから来たのか?......そこまで語るには、『ゴーレム国』が押し進めている『男女隔離政策』の事まで話さなければならなくなる。何も知らぬこの者達に、今ここでそれを話す勇気など、あたしに有る訳も無かった。
実際のところ、ここまで話した事すら正しかったのかと、警笛を鳴らすもう1人の自分が居たりもした。いかに誠実なる人物とは言え、何分にも今日初めて言葉を交わしたばかりである事は列記とした事実。ここは慎重にならざるを得なかった。これ以上の口外は無用だ......
そんなあたしの警戒心を他所に、オリバーなる人物は、なおもあたしに心を開き続けてくれた。
「俺は今、確かに『自警団』の一員だ。でもそれは今日の事であって、明日も『自警団』かどうかなんて全く分からない事だ。俺は二枚舌を持つような男じゃ無い。だから安心してくれ。そんな事より、俺に出来る事は無いのか? 人を探してるって言ってたけど......」
あたしが探してるのは『ゴーレム国』の王子!
そのお方は命を狙われてるから、どうしてもあたしが刺客よりも先に見付けなければならない!
あたしは『ゴーレム国』空軍隊長モニカ! 罠に掛けられた皇后ソニア様の命により、単身この大陸に乗り込んで来た!
王子の名はアダム、おでこに大きな『アザ』が有る青年!
あたしはそのお方を探している!
この時、この者を信じてそう叫んでいたならば、きっと状況は一気に好転していたのだろう。なぜなら、おでこに『アザ』が有るそのお方が、今目の前に居た訳なのだから......