第11話 お互いの為なんだと思う......
心の底から笑ったのなんて、いつ以来だろう......少なくとも、この『ポパイ大陸』に来てからは初めてだと思う。そんな心底から涌き出た笑いは、あたしの身体を十分に解してくれたようだ。気付けば、上がり切った血圧が正常値に戻っていた。
「オレはオリバー、これまでずっと『オリーブ大陸』で暮らしてた。あんたは?」
「えっ? 『オリーブ大陸』? あんた......男だよな。なんでまた......ちなみにあたしは、モニカだけど......」
「正直、俺もよくは分からない。『オリーブ大陸』じゃ毎晩『めしべの滴』を飲んで『女』になってた。もしかしたら、こうのとり様が間違って俺を運んじまったのかも知れんな」
『女』を経験してたって事か。なるほど......だからあたしの裸を見ても驚かなかったって訳だ。多分あたしの姿を見た途端、すぐに女だと分かったんだろう......
「だからさっき、カリキュラムは中止だって言ってくれたんだな」
「あんたが敵か味方かどうかなんて正直今でも俺には分からん。でもそれは敵味方以前の問題だ。『女』に自警団のカリキュラムなんか受けさせる訳にはいかない。ただそう思っただけだ」
「そうか......分かった。今更だけど、その事に関しては礼を言わせて貰うよ......ところでオリバーさん、なんであんたは自警団なんかに身を置いてるんだ? どう見たって、あんた自警団ぽく無いだろう。そもそも『オリーブ大陸』の住人だったのに、何でわざわざ『ポパイ大陸』に渡って来たんだ?」
「『めしべの滴』は、子供の身体にしか効力を発揮しない。大人になると同時に俺は『オリーブ大陸』で『女』を卒業した。『男』に戻った俺の居場所なんて、あの大陸に有る訳無いだろ? だから俺は、生きる場所を見付ける為に大海原を渡ったんだ。この大陸へやって来たのはついさっきの話。右も左も分からないこの俺を『自警団』は温かく迎え入れてくれた。だから今俺は『自警団』に身を置いてる。ごく自然な流れだ。
逆に『女』のあんたがこの大陸に居る事の方がよっぽど不思議な話だ。しかもあんたは誰にも負けない強者の筈なのに、何で自警団の牢屋になんか閉じ込めらてんだ? モニカさん......あんた何を企んでるだろ?」
今日あったらばかりのオリバーさんは、あたしを信じて全てを話してくれた。ならば、今度はあたしの番! などと、安易に語り始める訳にもいかなかった。
なぜなら、オリバーさんは自分を『自警団』の一員だと名乗っている。ついさっき入隊したばかりとは言え、その構成員である事には違いはない。しかも、彼の口から出て来た大陸の名前は『オリーブ』と『ポパイ』のみ。『ゴーレム国』の名は1度も口にしていなかった。
多分......『ゴーレム国』の存在も、『男女隔離政策』の事も知らないんだろう。ダメだ......まだこの時点で全てを語る訳にはいかない。それがきっとお互いの為なんだと思う......