第10話 運命の出逢い
あたしはそんな意味不明なる動揺を押し隠すかのように、あまりにつまらない事を聞いたりしてみた。
「股間の腫れはもう引いたのか?」
「ん? ここの事か?」
見れば真夜中の来訪者は、右手の人差し指をちょこんと局部に向けている。レディに対して何たるハレンチ!......などと平手打ちを食らわせたい気持ちにもなったけど、この話を振ったのは自分の方だ。そもそも牢屋の中からそんな暴挙に出る事など出来る訳も無かった。
更に言ってしまうと......この大陸にレディは居ない。今のあたしは列記とした『男』だ。危ない、危ない......こう言う油断から『ボロ』ってものは出ちゃうものだ。気を付けなきゃ......
「冷やしてたら、すっかり腫れは引いた。もういつもの大きさに戻ってるぞ。何なら見てみるか?」
なんとその者は、ズボンの紐を緩め始めてるじゃないか。もしかして変態?!
「お前のなんか見たくないって! とっとと紐を結び直せ!」
「何を恥ずかしがってんだ?」
「別に恥ずかしがったりしてない!」
「なら何で顔が真っ赤なんだ?」
「それは......」
「それは?」
「......」
「......」
「......」
「あんた......オリーブ大陸から来たのか?」
「オリーブ大陸?......」
「オリーブ大陸から来たんだろ」
「......違う」
「『女』......だな?」
「......」
「『女』なんだろ!」
「......」
「答えねぇ気だな! よし、よく見てろ!」
すると何を思ったか、その者は一気に服を脱ぎ始めたではないか! 上も、そして下もだ。
「お、おい、お前何する気だ?!」
「見れば分かるだろ! ほら、よく見ろって。これが『男』ってもんだ。さぁ、俺が脱いだんだ。次はお前が『男』を見せてみろ!」
「ああ、上等じゃねぇか! このモニカ様を見くびるなよ!」
スパスパスパ......
正直、この時のあたしはどうかしてたと思う......俺が脱いだんだからお前も脱げ!と言われて、頭がカッ!っとなっちゃったんだと思う。今思い返しても、何てバカな事をしたと後悔の念に絶えない......
「さぁ、どうだ。目を見開いてよく見ろ! これがな......これがな......これが『女』ってもんだ!」
そう啖呵を切ったあたしは、全てを脱ぎ去っていた。頭に血が登って倒れそうになってた事を今でもよく覚えている。するとその者の反応は、驚く程に静かだった。しっかりとあたしの目を見詰め、そして語った。
「あんた何で......自警団になんか紛れ込んだんだ?」
「あんた何で......さっきあたしをカリキュラムから外せって言ったんだ?」
「......」
「......」
「取り敢えず......着ようか?」
「取り敢えず......着ましょう」
サッ、サッ、サッ......
サッ、サッ、サッ......
「やっぱ、着た方が落ち着くな」
「その通りだわ」
「ハッ、ハッ、ハッ!」
「ハッ、ハッ、ハッ!」
10年語り合って打ち解けない者も居れば、一瞬にして打ち解けてしまう者も居る。今、目の前で屈託の無い笑顔を見せるその者は、明らかにその後者だった。
生涯を通じて忠誠を尽くす事となる『主』との出逢い......それは正に『運命の出逢い』だと言っても、決して過言では無かった。もちろんこの時点で、2人がそれを知るよしも無かった訳ではあるが......