第9話 やっぱ当たりだったか......
薄気味悪い牢屋の中......探し求めている真のアダムがすぐ身近に迫って来ている事など知るよしも無いモニカは、今日に限ってはなぜか眠れぬ夜を過ごしていた。
もう真夜中だって言うのに、
うっ、うっ......
お父さん......
お家に帰りたいよ......
あちこちから子供達のすすり泣く声が、やまびこのように響き渡ってくる。特に今日はその声が多いような気がする。
全く......何が自警団だ。ただの誘拐犯じゃないか! こいつらだけは絶対に許せん!
正直、あたしがこの大陸にやって来た理由はただ1つ。アダム様を見付け、無事ソニア様の元へお連れする事だ。とは言っても、この自警団の悪事を知ってしまった以上、それも見過ごす訳にはいかなくなっていた。
もしソニア様だったら、やっぱあたしと同じ事を考えていたに違いない。あのお方は、誰よりも優しいお方......この大陸の民を見捨ててアダム様を連れて帰ったとしても、決してお喜びはしないだろう。
ソニア様......今暫くお待ち下さい。私は必ずやこの大陸の問題を解決し、直ぐにアダム様を連れて帰りますから......
とは言え......次の方策はまだ何も決まってはいなかった。自警団の砦に入ってしまえば、あとは何とかなる......そんな安易な気持ちで飛び込んで来てしまったツケが、今完全に回って来ている。
でもそんな事を今更後悔しても始まらない。とにかく頭を切り替え、次なる行動をじっくりと考えていかなければならなかった。そんなこんなで、頭をフル回転させているうちにも、
早くお家に帰りたいよ......
相も変わらず、すすり泣く声が響き渡って来る。
寂しいよ......
ザッ、ザッ......
ん?
怖いよ......
ザッ、ザッ、ザッ......
なんだ?
子供の声に紛れて、何やら物音が近付いてくる。
ザッ、ザッ、ザッ!......
こ、これは間違い無い。足音だ!
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!
ザザザザザザ......!
この牢屋に誰かがやって来る! 全身にそんな『CAUTION!』が発令された途端、あたしの頭の中には、ある人物の顔が浮かび上がった。理由は分からないが、その者の語ったあの言葉が頭の中でテロップとして流れ始めたのである。
こいつはダメだ。カリキュラムを中止しろ......
それはついさっき、ここへやって来た自警団の1人が、あたしの姿を見ていきなり叫んだ言葉だ。正直、何でそんな言葉を発したのか、今でも大きな謎だった。
ザッ、ザッ、ザッ......ピタッ。
そしてそんな足音は、遂にあたしの牢屋の前で止まったのだった......
「大きな声を出さないでくれ。忍び込んだのがバレちまう」
やっぱ、当たりだったか......
正直、凄い不思議だった......頭に描いていた通りの人物が現れたのに、今あたしは激しく動揺している。もしかしたらこれが運命の出逢いである事に、この時点で既にあたしは感じ取っていたのかも知れない。




