第8話 ちょっと行ってみるか......
俺はモニカのパンチを避けるつもりは無かった。所詮、女の力だ。せいぜい顔にアザが出来るのと、歯が1本折れる程度だろう。そんな攻撃を避ける事よりも、モニカの身体を押さえ込む事だけに、俺は全神経を集中させた。
やがてモニカの顔が一気に大きく見えて来る。すっげぇ速いぞ。でも俺には見える......完全に見えてるぜ! さぁ、おいで......子羊ちゃん!
残念ながら俺の頭の奥底で、所詮は『女』......そんな油断が有ったんだと思う。まさかそう来るとは......思って無かった。
ズボッ!
モニカの手は飛び出して来なかった。変わりに別のものが飛び出して来てた。それは......足だった。気付けば、モニカの爪先は俺の股間に突き刺さっている。掟破りの急所攻撃炸裂だ!
「うっ......」
それは今までに経験した事の無い痛み方だった。もう地べたでうずくまるしか無い。ダ、ダメだ......立ち上がれん。全身の力が抜けていく......完璧に俺の負けだ。
それにしても、こいつは何者なんだ? 男の急所を知ってやがる。そもそも......男しか居ない『ポパイ大陸』に、なんでこいつは紛れ込んでるんだ? 待てよ、なんか企んでるな......この女。
「おととい来やがれ! この木偶の坊が!」
モニカは悶え苦しむ俺にそんな罵声を浴びせ掛けると、テクテクテク......自ら牢屋の中へと戻って行ったのである。
それって......逃げる気無いって事だろ? 逃げたければ余裕で逃げれる筈だ。誰もこんな強い奴を追い掛けたりはしないだろう。
やがて、ギー......
モニカは自分で鉄格子を閉じると、グー、グー、グー......直ぐに寝てしまった。
「おいオリバー、大丈夫か?」
チョビはモニカに殴られた顔面を押さえながら、俺を抱き起こしてくれた。見れば、また鼻が曲がってる。
「ああ、この鼻か......もういいよ。治したところで、また直ぐに曲がるだろう。俺、弱っちいから」
「今度、ケンカのやり方教えてやるよ。一番大事なのは......急所のガードだな」
その日は、その後何も起こらなかった。モニカに負けたのは情けなかったけど、チョビとの友情が少し深まったような気がする。
話に寄ると、明日は『臥龍村』って言う盗賊の漁村を、討伐するらしい。もちろん、俺もその討伐メンバーに名を連ねてる。とにかく、その村の『イバン』って言う親玉を捕らえて来るのが最大の目的だ。
つい最近、そんなこんなで『臥龍村』へ大勢で向かったらしいが、その時はさっきのモニカが村に居て、返り討ち遇ったって話だ。とにかく、明日は気を引き締めて行こうと思ってる。いいとこ見せて、今日の負けを取り返さんといかん!
それはそうと......やっぱモニカが気になる。今何時だ? もう夜中か......明日は遠征だし、今日のうちにちょっと行ってみるか......
俺は、与えられた個室のベッドからヌクッと起き上がると、スタスタスタ......一目散に歩き出した訳だ。向かった先は他でも無い。モニカが捕らえられてる地下の『牢屋』だ。
まともに話をしてくれるかは分からんけど、行くだけ行ってみるとしよう......