第7話 よし、貰った!
その者は明らかに身体のラインを意図的に隠していた。多分胸に布でも巻き付けてるんだろう。髪の毛を乱雑に切り落としたみたいだけど、それこそが自分は『男』に成り済ましてると言ってるようなものだ。そもそも20才過ぎてヒゲ生えて無いし。
多分、この大陸の人間だったら、そんな仕込みで完璧に騙せたんだろう。でも俺は騙せない。なぜなら、ちょっと前までオリビアだったんだからな。
でも待てよ......こいつ、これからカリキュラムを受けるんだよな? それって、ヤバくない?! 強制◯◯だろ? 今回が初めてって言ってたから、多分こいつもこれから自分が何されるか分かって無い筈だ......こりゃダメだ!『極悪人』だろうが何だろうが、見過ごす訳にはいかん!
「おいチョビ、こいつはダメだ。カリキュラムを中止しろ!」
「な、何言ってんだ? そんな事出来る訳無いじゃん!」
そんな会話をしているうちにも、俺の足はもう勝手に動き出してた。スタスタスタ......でもどうやら、俺のそんな心配はただの取り越し苦労だったようだ。
「その汚い手を離しやがれ!」
バコンッ!
「貴様、抵抗するつもりか?!」
ドスンッ!
「このモニカ様を舐めるなよ!」
バコンッ、ドスンッ、バタバタバタ......
一瞬にて『自警団』達は、蹴散らされている。
「おいオリバー、何ボッと見てんだ?! 一緒に捕まえろ!」
スタスタスタ......!
気付けば、チョビが勇み足で『モニカ』なる『極悪人』の元へと突き進んでる。
こいつは結構強いぞ。相当場馴れしてるな。チョビ如きが何人掛かったところで、勝てる相手じゃ無い。案の定、バコンッ! 一撃でふっ飛ばされてるし。笑っちゃいけないが、思わず笑ってしまった。
「おい、オリバー......早く......捕まえろって......」
「なんだ? お前もこのモニカ様にケンカ売る気か?!」
参ったな......『女』相手にケンカなんかしたく無いんだけどよ。でも、一応俺はさっきこの『自警団』に入ったばかりだしな......仁義としてこれを見逃す訳にもいかないってか......
「おいチョビ、もう一度言う。こいつのカリキュラムを中止しろ。それがこいつを捕らえる条件だ」
「わ、分かった......俺からブルート様に話しておく」
「よろしい!」
話が着いたところで、俺はあらためてその『モニカ』とやらの男装女子を見詰めてみた。多分、俺の身体から発っしてる激しきオーラを向こうも感じ取ったんだろう。迂闊に飛び込んで来る気配は無い。まぁ、賢いと誉めてやろう。
ジリッ、ジリッ......
俺が間合いを詰めていくと、
ジリッ、ジリッ......
モニカも摺り足で距離を縮めて来る。
こいつ......隙が無い。女と思って舐めて掛かったらこっちがやられてるぞ。
「......」
「......」
俺は敢えてこっちから攻撃を仕掛けなかった。かなり鍛えてるみたいだけど、所詮女の身体だ。根本的に男とは違う。スピードは互角だけど、パワーは圧倒的に俺の方が上だ。ならば敢えてこっちから攻撃を仕掛ける必要は無く、踏み込んで来たところを押さえ込んじまえばそれで終わりだ。さぁ、早く踏み込んで来いよ......
凍り付くような沈黙が10秒程続いたその時だった。突然、沈黙を打ち破る事態が背後から巻き起こる。
「ベビーフェイスが暴れてるぞ。者共、取り押さえろ!」
バタバタバタ......! 邪魔者達の登場。
その瞬間だ。
「てやぁー!」
お望み通りモニカは殴り掛かって来てくれた。
「よし、貰った!」