第4話 待っててくれ、イブ
「あの大陸の人間は、みんなお前みたいに強いのか?」
とか......
「あの大陸には大勢人が住んでるのか?」
とか......
「あの大陸の人間はどんな生活してるのか?」
などなど......
『砦』に着くなり、とにかく根掘り葉掘り聞かれる訳だ。まぁ、当たり前だよな。誰1人この『ポパイ大陸』から『オリーブ大陸』に行った者は居ないんだから。
そんな彼らの質問に対し、俺は答えを全て統一する事にした。何を聞かれても、
「記憶にございません」
それで通した訳だ。まぁ、『バケラッタ』よりはマシだろう。でも何で教えてやらないのかって? 別に意地悪してる訳じゃ無いぞ......それにはいくつか大きな理由が有った。
ちなみに、この『砦』に来てから既に100人以上の『人間』とすれ違っている。はっきり言おう。全員俺と同じ『男』だ。イブみたいに、見ているだけでドキドキするような『女』はただ1人として見ちゃいない。
『この大陸に女は居ないのか?』何て聞いたところで、『女って何だ?』と逆に聞き返されるのがオチだろう。それって『男』を知らないオリーブ大陸の『女』達と全く同じだ。
もし今、俺がこいつらに『オリーブ大陸』の『女』の存在を教えたら、どうなる? 俺とイブが夜な夜な樫の木の下で、チョメチョメしてた話をしたらどうなる?......想像しただけでもゾッとするぜ。
『男』と『女』は磁石の関係だ。きっとこいつらは、あのチンケな船に乗って『オリーブ大陸』へ渡ろうとするに違いない。まず全隻沈没してサメの餌になるのがオチだ。
仮に『オリーブ大陸』へ無事たどり着いたとしても、今のこいつらの素行を見てる限り、俺の大事な故郷の人達を、本能のままに蹂躙しちまいそうだ。危なくて行かせられないわ。
今はまだこいつらの本性を見極める時だ。焦る必要は無い。時が来たら、こいつの世話になる事にしよう......俺は服の中に隠してた『ヨットの設計図』に手を当てた。パピー、マミー、もう少し待っててくれよ。俺は必ずあなた達の所へ戻るからな......
これは十分考えた末での決断と言える。俺は海での格闘の末、頭を打って『記憶喪失』になった人に成り切ったのだった。
そう言えばさっき、
「お前は今日から『自警団』の一員だ!」
『頭』のブルートからそんな事を言われた。
まぁ、『自警団』って言うくらいだから、きっと人々の役に立つ仕事をしてるんだろうに。別に行く当ても無い訳だし、特に断る理由は何も見付からなかった。
だから俺は「分かった......」ただ一言、そう返事をした次第だ。俺に取っては願ったり叶ったりの話だったし、『自警団』に取っても、俺は恰好な用心棒に成り得るんだろう。正に相思相愛なる関係ってやつじゃ無かろうか。
「おい兄弟、『砦』の中を案内するぜ」
孤独に成り掛けた俺を見て、真っ先に声を掛けて来てくれたのは、さっき俺に殴られてすっかり鼻が曲がってしまった小柄なずんぐりむっくりだった。
「ありがとよ......俺はオリバー、あんたは?」
「おれはチョビ。あんたの一撃、最高だったぜ」
見れば曲がった鼻を擦ってる。さすがにちょっと後ろめたい気がして来た。この顔じゃ、後々『女』に会っても、相手にされんだろう。
「ちょっといいか? 少しだけ我慢してくれ」
「お、おい、な、何するんだ?!」
きっとチョビは、何で俺が曲がった鼻を握ってるのか分からなかったんだろう。でも直ぐに分かる事だ。
「じゅあ、行くぞ」
「い、いくって?!」
「せ~の~」
バキッ!
「うっ!!!」
「よしっ、色男の出来上がりだ」
チョビは何が起こったかも分からぬまま、川の水面に顔を映し出した。
「鼻が元に戻ったぞ」
「さっきは、悪かったな」
「いや、俺がオリバーより弱かっただけだ。気にするな」
どうやら......俺は自分の居場所が見付けてしまったようだ。俺を受け入れてくれたこの『自警団』の為に、精一杯働かなきゃいかん。この大陸の治安を守る為なら、どんな敵とも皆と共に命を投げ出して戦うつもりだ。
そしていずれ、『記憶喪失』を止める時が来るだろう。待っててくれ、イブ......そして愛すべく『オリーブ大陸』の人達......