第3話 足を踏み入れてた
「ま、参った......か、勘弁してくれ!」
気付けば誰1人として、俺に立ち向かう者は居なくなってた。正直、あんまし戦ってる時の記憶は残って無いんだけど、みんなぶっ倒れてる所を見ると、間違い無く俺がボコッたんだろう。
「いててて......」
「歯が折れた......」
「鼻が潰れた......」
「もう立てん......」
「大丈夫か? ほれ」
無意識のうちに、俺は傷付いたこいつらに手を差し伸べてた。元々、傷付ける事が目的じゃ無かったし、悔い改めて貰えばそれでいい話だ。そう考えると、当然の行動だったんじゃ無かろうか......
「オメー......強え~な......」
きっとこいつがリーダーなんだろう。素直に負けを認めるところが、妙に潔く感じるわ。
「まぁ......海でサメとクジラと戦って来たばかりからな」
「海だって?! お前、どこからやって来たんだ?」
「あそこだ」
俺は遥か遠く、モヤに霞んだ大陸を指差した。もちろん『オリーブ大陸』だ。
「な、な、な、何だと?! お、お前ら聞いたか?!」
「あの大陸からやって来たのか?!」
「この大海原を渡って?!」
気付けば俺は羨望の眼差しで見詰められてる。なんだか、刺激が強過ぎたみたいだな......言わん方が良かったかも? でも、もう言ってしまった。後戻りは出来ん。
「ま、まぁな......」
でも、ちょっと後悔した。
「よし、立ち話もなんだ。俺達の『砦』に来てゆっくり話を聞かせてくれ。歓迎するぞ」
「『砦』って......あんたら一体何者なんだ?」
「おお言い忘れてたな、俺達はこの『ポパイ大陸』の自警団。俺は『頭』のブルートだ。覚えといてくれ」
『自警団』?......って事は、この大陸を守ってるって事?......だったら悪い奴らじゃ無いって事か......まぁ、いいだろう。
「俺はオリバー。ただのよそ者だ」
打ち解けてんのか? 打ち解けて無いのか? よくは分からないが、このブルートって名の『頭』は、馴れ馴れしく俺の肩に手を回してやがる。すっかり『マブダチ』扱いだ。まぁ、行く所も無いし、ここは素直に付いてくしか無かろう......
海岸線を見詰めてみると、俺を背に乗せてくれたイルカ君が、心配そうな顔をして、こっちを見てくれてる。『ありがとな、心配すんな』って気持ちを込めて手を振ると、イルカ君達は安心した顔を見せて静かに海へと戻って行った。
多分、こいつらはもう君らを襲わないよ......安心して泳ぎまくってくれ......まぁ、そこまで俺の気持ちが伝わったかどうかは分からないけどね。
そんな調子で......いつの間に俺は、彼らの『砦』に足を踏み入れていたのだった。