第2話 誰の血を引いてるんだ?
気付けば20人程の人間が、アップアップしながら水面に浮いてるのが見える。陸までの距離は凡そ1キロってとこだろう。海の男達とは言え、この波の高さ、潮の流れの速さを考えれば、生きて帰るには少しばかり難儀を要するに違いない。
置いて帰るにはちと気が引けた。俺はこれからこの大陸に上陸する訳だし......あまり大きな遺恨を残し過ぎても、後の行動に支障を来すだろう......
と言う訳で......俺は目の前で溺れ掛けてる大男に手を差しのべてやった。まぁ、飴と鞭の使い分けってやつかな......
そんな仕草に気付いたイルカ達は、天敵たる漁師達を次々と背に乗せ始めてくれた。彼らは頭がいいだけじゃ無く、優しい心も持ち合わせてるみたいだ。にくいね!
さすがのこいつらも、ここでイルカ達に助けられれば、少しは恩義を感じて、イルカ漁を止めるんじゃ無かろうか......そうなってくれる事を俺は切に願った訳だ。
それはそうと......さっきから気にはなってたんだが、どこを見渡しても俺と同じ『男』しか居ないじゃないか。しかもやたらと厳つい奴ばかりだ。もしかしてイブやマミーみたいな『女』は居ないのか?......何か嫌な予感がするけど、まぁ焦らなくても、陸に上がってみればきっと分かる事だろう。
そんなこんなで......疲労困憊の『男』達を連れて、漸く俺はこの『新大陸』の砂浜に上陸を果たした訳だ。すると、そんな真っ白な砂浜には、顔を真っ赤にした偉そうなおっさんが、仁王立ちして俺を睨み付けている。風貌、オーラからして、多分こいつらの親玉なんだろう。
文句を言いたいならはっきりと言えばいい。ただ俺は一歩も引くつもりは無いぞ! やるならやってやる! などと身構えてたら、やっぱ文句を言って来やがった。
「どこの馬の骨だかは知らんが、よくも『自警団』の漁を邪魔してくれたな! 許さん、ぶった切ったる!」
俺が馬の骨? こいつは目が悪いのか?......どう見ても人間だろ。まぁ、細かい事はいいとして......よし、言うべき事は、はっきりと言っておくべし!
「お前達が何をしようと、俺の知ったこっちゃ無い。ただ人間の友を殺す事だけは許さん! 俺の言いたい事は......それだけだ。死にたくなきゃ失せろ!」
正直まだ俺は、この大陸の事を何も知らない。地形の事も、人間の事も、文化も、しきたりも、食も住も何もかもだ。冷静に考えれば、初めて出会った同族なる『人間』と、ケンカしてる場合じゃ無い事は分かってる。共存しなきゃ人間は生きていけない訳だからな......
でも俺は、損得勘定よりも大事な物差しが有ると信じてる。恩義には報いなきゃならん。例え相手が動物であってもな......恩義を忘れたら、人間は下等動物と何ら変わらんだろ!
と言う訳で、俺は初めて出会ったこの『人間』達20人にケンカを売ってしまった訳だ。もちろん『失せろ!』と言ったところで、こいつらが素直に消えるとは思っちゃいない。
「野郎ども、掛かれ!」
思った通りだ。ほうほう、剣やら槍やらモリやら......お前らいつもそんな物持ち歩いてんのか? 銃刀法違反で捕まるぞ。でもまぁ、いいだろう......相手になってやる!
「まとめて掛かって来やがれ!」
てな具合で、一気に『果し合い』が始まった訳だ。丸腰1人VS重装備20人。まぁ、相手に取って不足無しってとこだわな......
「死ねや!」
「往生せいや!」
「串刺しじゃあ!」
バコンッ!
正直、こいつらの動きが止まってるように見えた......
ボコッ!
身体が軽くて宙に浮いてるみたいだし......
ドスッ!
身体の奥底から力が無限大に涌き出て来る......
ベコッ!
俺は一体、誰の血を引いてるんだ?......
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