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天使は何かを気にしてる

 今日も太陽は元気いっぱいな様子で、雲一つ寄せつけない程の快晴を作り上げてしまっている。気温までいつもより高くなるから迷惑なものだ。


 午前十時という、休日に待ち合わせをするには早い時間帯に、俺達は集合することになってしまった。しかも、学園の天使と悪魔が同行するという、何とも不思議な待ち合わせだ。


 俺たちの高校の最寄駅から二駅程離れたところに、観光スポットとして有名な所がいくつかあり、今回はそこをレポートする予定になっている。駅の改札前で一番乗りで待っていた俺は、今日の予定を思い出しつつスマホをいじっている。いつもは遅刻ギリギリなのに、今回は二十分近く前にやってきてしまった。


「お! ちゃんと遅刻しないで来たな。一番の不安要素が解決した!」


「何だよ。俺が遅刻することなんてそうそうないんだぜ」


 どの口が言ってるのかという話になるが、豪快に手を振って現れた麗音は全く気にする様子がなく、ガハハ! と大きな声で笑っている。


「お前は今回の取材で撮影係をしてもらうからな。ある意味一番重要だと言えるだろう」


 まあ、お寺とかの画像だったら、ネットでいくらでも拾ってこれると思うのだが、麗音は一度凝り出したら止まらない性分なのだ。とか何とか考えているうちに、遠くから一際目を引くルックスの持ち主が、爛々とした目をこちらに向けて歩いてくる。


「おっはよー! 麗音君、天沢君。今日はよろしくね!」


 初めて見る私服姿に俺は息を呑んだ。白いフリル袖のトップスとストライプスカート、白いスニーカーにリュックサックという見るからにスポーティかつ爽やかな格好。きっとお寺巡りなどをするから、動きやすい服装にしたほうがいいと判断したのだろう。普通の女子なら特に目に止まることもないが、今駅構内を歩いている人々はみんな彼女とすれ違うと振り返ってしまう。


「お、おう。悪いな。付き合ってもらって」


「いいぞ海原よ。これならモデルとしてバッチリだ」


「へ? モデル?」


 きょとんとした顔になる海原。これには俺も初耳である。モデルってどういうことだという二人の視線を感じた麗音は、ふっとキザな笑みを向けると踵を返し、


「いや。こちらの話だ。気にするな。さて、行くとするか」


「ああ、そうだな。じゃあ行くか」


「ちょっと待ちなさいよっ!」


 ピシャリ、とばかりに強い声が聞こえ、海原はビクリと改札方向を向き、俺も同時に声の主を探した。まあ、今の覇気ありまくりの声は、予想するまでもなく誰であるかは明白なんだけど。


「アンタ達まさか、このあたしを置いていくつもり?」


 改札から颯爽とやってきたのは、海原とは双璧をなす学園の悪魔、真栄城夏希だった。まあ、前々から自分も参加すると宣言してきたし、来るのは当然なのだが。


 服装も海原とはまるで反対のカラーリングで、黒のタンクトップに花柄のガウチョ、中折り麦わらハットにスニーカーというちょっぴり大人っぽい感じ。こちらはこちらで周りの男達から注目を浴びており、怪しい魅力に溢れているような。まあ簡単にいうと色っぽい。


「おお、すまんすまん。我としたことが、忘れてしまっていたらしいな」


「ふん! そういう態度はよろしくないわ。ねえ、海原さん。そう思わない?」


「ふぇ!? そ、そうですね。あはは!」


「何よ。歯切れが悪いわね。アキはどう思うの?」


 アキってなんだよアキって。そういえば昨日、名前で呼び合おうとか言っていたが。女子に名前で呼ばれることなんてないので、ちょっとばかりドキリとしてしまう。


「あ……ああ。もう気にすんなよ真栄城。行こうぜ」


「ちょっと! 違うでしょ。名前で呼ぶ合う約束じゃない」


「お、俺はまだOKとは言ってなかったろ」


 なんてハードルの高い要求だよ。それを聞いた麗音は「ん?」と言わんばかりの間が空いた顔になり、海原はまるで時間が止まったようにその場に固まった。


「え、えええ」


「あら? どうしたの海原さん。さあ、行きましょうか」


「お前が仕切るんじゃない! 部外者め。ここは我が先導する!」


 俺と海原は争う麗音と真栄城を眺めつつ、最初は金魚のフンみたいな感じで付いて行くことになった。



 麗音は必死になって調べていたようだが、正直な話、この街に観光スポットと呼べるものは少ない。そして、その少ないスポットのうち幾つかは、車で遠出をしないとたどり着けないところがほとんどである。中途半端な都会ならではの状況というか、早い話がどうしようもない。


 よく解らない記念碑とか、鐘みたいなものを回るくらいしかなかったのだが、麗音は俺から借りた一眼レフカメラを使いこなしてシャッターを切りまくっている。俺がやるはずだったが、結局自分がカメラを使い出した。やる気があるのはいいことなのだけど。


「よーし! そうだ。そこで笑うがいい。おお、いいぞ!」


「あ、あのー。麗音君、これって」


 どういうわけか観光スポットの写真というよりも、海原をメインに写真を撮っているようなシーンばかりなのは、きっと気のせいじゃない。麗音のやつめ、こりゃどういうつもりだと思っていると、俺よりも先に真栄城から待ったがかかる。


「ちょっと麗音君。アンタ、さっきから海原さんばかり撮っているじゃない。もしかして彼女の写真集でも作るつもりじゃないでしょうね」


 大きな公園のど真ん中に建っている、よく知らない偉人の銅像をバックに固まっている海原を撮りながら、麗音は誠実にしか見えない真顔で真栄城を見上げた。ちなみに今奴は地面に寝そべって写真を撮っているのだが。


「何をいうか! これはちゃんと風景の写真を撮っているのだぞ。さて、次は地区で最も歴史が深い寺に行くとしようか」


「いいえ! これはきっと海原さんの写真を撮影しまくって悪用する気よ。麗音君、あなた写真を売って儲けようとか考えてないでしょうね」


「ギク……違うと言っている! さあ、そろそろ寺に向かうぞ。住職がお話をしてくれるからな。待たせることがあってはならん」


 しれっとした顔で立ち上がり歩き出した麗音だが、明らかに動揺が見て取れる。ふんっとばかりに監視官状態になっている真栄城が続き、その後に俺と海原が続く。


「い、今の反応は……。絶対ダメだぞ麗音! 写真は俺が確認して、レポートに使うもの以外は削除するからな」


「ね、ねえ天沢くん!」


 オロオロした感じの海原が隣を歩いてくるので、ちょっと俺は申し訳ない気持ちになってくる。


「悪いな海原。お前の許可をもらってない写真は載せないし、他は絶対消すから安心してくれ」


「あ、それは大丈夫だって解ってるけど。その……」


 あれ? どうやら彼女が気にしていることは別にあったらしく、俺は他に気にしているものが浮かばなかった。


「真栄城さん、どうして天沢君のこと、アキって呼んでたの?」


 そっちか。別に気にするほどのことじゃないと思うんだけど。


「ああ、実は昨日いろいろあってな。よく分からん要求を飲むことになっちまったんだよ。ハメられたわ」


「そ、そのいろいろを詳しくっ」


「また今度な!」


「えええ。ねえ話してよ。気になるー」


 そのいろいろを喋っちゃったら、まるで痴漢しようとしたとか勘違いされそうで怖いので、黙っておくことにした。俺はそそくさと麗音と真栄城に並び、海原は不満げにすぐ隣まで追いついてくる。

 この時点で嫌な予感は感じていたんだが、天使と悪魔が同行している時点で察するべきだった。

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