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もしかして、天使は俺のストーカー?

 高校に入学してから早くも三ヶ月が過ぎ、そろそろ夏休みにみんなが心をウキウキさせている中、俺はどーでもいいやとばかりにダラけていた。


 ぼっちの俺にとっては夏休みの一ヶ月間っていうのは、全然充実なんてしない虚無の世界だからだ。


 しかしながら海原とのラインでのやり取りだけは、不思議なことに今も続いている。っていうか、だんだんチャットの頻度も上がってきているような気がするのだが。


 朝のHRを終えて、英語を覚える為に海外の映画を観せようという先生の計画により、俺達は視聴覚室に移動することになった。こういう時ってぼっちは気まずいのだ。誰とも一緒に歩かないから、普段よりもいっそう孤独感がある。


 ようやくたどり着いた視聴覚室の片隅で、またいつもみたいにボーッとした感じで映画を鑑賞する。スパイ映画みたいな感じだろうか。なかなかにハードボイルドな展開になりそうな予感。


 そんな時、前の席に座っていた女子二人組の会話が聞こえてきた。退屈とは言え、映画鑑賞中にヒソヒソ話を始めるなんてマナーが悪い。


「嘘……それってストーカーじゃん」


 髪の長い女子が放った言葉が妙に気になる。茶髪のちょっぴり柄の悪い女子は気まずそうに、


「そうなのかなー。なんかねー、偶然を装って校門前にいたりするんだよね。一緒に帰ろうぜ! とか誘ってくる」


「うわ、マジー? それってもう確実だよ」


 偶然を装って校門前で待っているか。そんな奴もいるのか、ふむふむ。段々映画より女子の会話に意識が向いてくる。


「なんかね、しょっちゅうラインもしてくるようになったのよ。生きてる? とか変なライン」


 こいつはそのストーカー疑惑の男とラインを交換しているのか。俺もそんなチャットが来たことがあったな……。


「この前なんてさ。私のためにお弁当作ってきたんだよ。おかしくない?」


 男の癖にお弁当まで作っちゃうのかよ。そういえば俺も以前……ん!?


 ちょっと待て。ストーカーっていうのはこういう行為をしている人を指すのか? だとしたら海原は、今までの行動を考えるに、俺にストーカーしているってことにならないか?


 しかし、そう決めるには無理がある。校門前で俺を待っていたのは流石に偶然だったはずだし、ラインだって俺の怪我を気遣ってのことだし、お弁当だって本当に心配だから作ってくれたんだろう。


 もしストーカーだとしたら、海原が俺のことを好きだという話になる。ない、それは絶対にない。中性的な顔をした高スペックイケメンに溢れたこの学園で、どうしてわざわざ冴えない俺に惚れるというのか。でも、さっきの話と海原の行動は似ている。何故だ。


 いきなり頭の中に浮かび上がった強烈なダイナマイト的発想に駆られ、俺は全く授業に集中できなくなった。それから放課後まで、頭の中は海原ストーカー説に支配されていたが、バイトの時間も近づいてたのでそそくさと学校を出る。


『天沢君、今日はバイトだよね?』


 ううむ。スケジュールまで知られているが。ますます妙な疑惑が高まってくる。やっぱりストーカーなのか? あの海原が俺に? なんで?


『そうだ。今日はバイトで夜までガッツリ稼ぐつもりだ。お前はどんな予定だ?』


『えへへ! 秘密です』


 気になりつつも、足は勝手にバイト先であるカフェに辿り着く。これから忙しくなるっていうのに、妙なことに頭を支配されている場合じゃないとばかりに、勢いよく扉を開ける。


「マスター! お疲れさ、」


「あ! 天沢君だ。お疲れー」


 いつものポジションである窓際席に彼女はいた。学園の天使がこっちに向けて宝石並にキラつく笑顔を向ける。しかしいつもと状況が違う点が一つ。どういうわけか、親友と思われる女子の一人を連れてきていたのだ。ツインテールの、いかにも子供っぽいなりをしているが、何か鋭い観察眼を持っていそうだと初見で感じる。


「お前……」


「えっとね。京香ちゃんがどうしても来てみたいっていうから、連れてきちゃった」


 海原の向かい側に座っている女子は、ペコっと小さく礼をしてきた。俺も軽く礼を返してからマスターの元へ向かう。定位置であるカウンター脇でミルを使っている姿は、いつも全く同じで上品のお手本とも言えた。


「今日はお友達連れなんだね。海原さん」


「そうみたいっすねー。まあ、その分売り上げが上がるからいいですよね」


「そして秋次君のアピールチャンスでもある。二人ともオーダーはまだだよ」


「何をアピールするんですか俺が」


 エプロン姿に着替えつつ、横目でマスターを睨む。すると何かおかしそうに笑い出した。嫌な気分になりつつも、店員である以上お客さんに注文を取らなくてはいけない。つかつかとリア充感全開ゾーンに歩み寄る。眩し過ぎて死にそうだ。


「ご注文は何にしますか?」


 天使は元気よく右手を高く上げると、


「はいっ。マスターおすすめコーヒーとサンドイッチで! 京ちゃんは?」


「あたしも同じやつで。っていうか、あなたが天沢君だったんですね。うーん、確かに!」


 え? 何だよ海原のやつ。もしかして俺のこと何か話してるのか? 思わず固まってしまうと、京香とかいう女子は興味深げに見つめつつ、


「すっごい野球できそうな感じしますね!」


「……へ?」


「でしょ! 絶対すごいピッチャーになれそうだよねっ」


「いや。別にそんなことないだろ」


 そういうことだったか。俺は何だか気が抜けてしまい、更には空気が抜けたように軽くなった体を何とか動かしてマスターの元へ戻り、盛大なため息を漏らしてしまう。


 何だよ。海原がやけに俺にぐいぐい来ているのは、ただ単に今の野球部の現状を憂いて、誰か新しい奴を投入したいっていう、ただそれだけだったのか。


 考えてみれば当たり前だ。だって学園のトップなんだから。俺なんて恋愛対象に見ているはずはないんだ。プチ女子会を開いて楽しそうにしている海原を眺めながら、自分があまりに自意識過剰になっていたことに気づく。何を自惚れていたんだよ、と内心自分を叱っていた。


 そして一時間ちょっとくらいしてから女子会はお開きとなり、俺は二人が去っていく後ろ姿を眺めながら、彼女と接点を持つ前の、ただの天沢秋次に戻っていくようだった。




 ……だったのだが。帰りの電車でまた海原からラインがくる。


『今日もすっごく楽しかったよ! ねえ天沢君。良かったら夏休みも遊ぼうよ』


 また勧誘だな。俺は適当に返事をしてお茶を濁すことにした。


『はいはい。でも何をしたって、俺は野球部には入らないぞ』


 これできっとチャットも終わりだな。そう思っていると秒で返信がくる。マジで一分経ってない。


『ふぇ!? 野球部のことはもういいよ。強引に誘ってごめんね! えーと、じゃあねー。今度の、』


 え? おいおい。勧誘目的じゃないのかよ? 俺の頭は突然電車内で混乱してきた。

 じゃあやっぱりストーカーか?  ちょっと待て! それこそ有り得ない。俺とかが海原のストーカーになるならよくある話だが、その逆は有り得ないって。どんだけ自意識過剰なんだ俺。


 でも、だったら何で? 謎は深まるばかりだ。

 しかし、学園の天使との生活は普通に楽しかったし、それだけなら俺は特に苦労をすることもなかったのである。実はこの話には、もう一人語らなくてはいけない存在がいる。ようやく彼女についても話すことができそうだ。


 天使が存在する世界には、同じように悪魔だって存在する。

 次は学園の悪魔について話をしようと思う。

 今更ですが章を追加しました^ ^

 これからも宜しくです!

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