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【4】

◇◆◇◆◇


 翌月曜日。

 登校してから僕と伊川さんは、さり気なく、他のクラスメイトに気づかれないように、何度もアイコンタクトを交わした。


 伊川さんに最初『学校では内緒で』と言われたときは、切なく感じたのだけれど……


 実際に学校に来てみると……二人が付き合いだしたことを秘密にしておけば、他のみんなに冷やかされたりからかわれることもないから、気楽でいいと気づいた。


 もっと言えば、こういう『二人だけの秘密』みたいな感じは凄くいい。

 僕達二人の絆が、より一層深まりそうに思う。


 ──さすが伊川さんだ。




 そう思っていたのだけれど──事件は二時間目の授業中に起きた。


 二時間目の授業は、担当教師が体調不良で休んだことで、自習となった。

 だけど自習の時間に自習するヤツなんていない。

 ──これが世の中の摂理だ。


 僕達のクラスも例に漏れず、あちらこちらでグループを作って雑談に興じるヤツと、自分勝手にスマホで遊んだり、音楽を聴いたりし始めるヤツに分かれた。


 クラスのカースト最上位の池田 華美はなみは、相変わらずチャラい男子数名に囲まれて、王女様のように持ち上げられてる。

 囲んでる男子の中で代表的なのは、新藤しんどうっていうヤツ。


 結構なイケメンで、親が金持ちらしくて、こいつが男子のカーストで言うとトップだ。

 池田 華美はなみと新藤は付き合ってるって、もっぱらの噂だ。


「いやぁ、池田さんは相変わらず美人だなぁ」

「いえいえ、そんなことはないわ」

「いやいや、そんなことあるな。ウチの学年ではダントツ一番の美人だな!」

「……ウチの……学年?」

「あっ……いや、ウチの学校……もしかしたら県で一番かもな」

「そうかなぁ……私なんか大したことないでしょ? ウチの学校にでも、他にも可愛い女の子はいくらだっているし」

「いやぁ~いないいない! 池田さんほど可愛い女の子なんて、絶対にいないって。池田さんに比べたら、他の女子なんて全員ジャガイモだ」

「ジャガイモ? ……それは他の女の子に失礼でしょ?」


 池田は新藤をたしなめるようなことを言いながら、顔はニヤついている。自分が褒められて、満更でもないって表情だ。


「ああっ、ごめんごめん。俺って、ついついホントのことを言っちゃうんだよなぁ。真面目で正直だから」

「あはは。口が悪いのはダメよ、新藤君! あなただって女子に人気なんだから、そんなことを言ってたら嫌われるよ」

「あはは、そうだなー」


 ──アホらし。

 確かに新藤はイケメンだし金持ちだけど、自分がモテるって思ってる勘違い男だ。

 チャラいし不誠実な感じだし……あいつを嫌いだって女子の声を、何人かから聞いたことがある。


 池田 華美はなみも確かにかなりの美人だ。背が高くてモデル体型で、ロングヘアが美しい正統派の美人。


 だけど県内一なんてチャンチャラおかしい。

 あの超絶美少女ユーチューバー『淡き今』ちゃんは、きっと同じ市内──少なくとも同じ県に住んでるはずだ。


 県内一の美人って言うなら、それはやっぱり『淡き今』ちゃんに決まってる。

 それに池田はいつも高飛車な態度が鼻につくから、僕はあまりいい印象を持ってない。


 ──まあ、そんなことはどうでもいいか。

 僕には関係のない話だ。


 新藤も池田さんも、僕にちょっかいを出してこないなら、いけすかないヤツであろうとなかろうと関係ない。


 そんなことに気を奪われてるよりも──僕はスマホで小説を書くことにした。

 伊川さんをチラッと見ると、彼女もスマホをいじってる。


 お互いに一人が気楽ってタイプだから、それが至極自然な行動に思えた。



 しかし──自習が始まって、しばらくすると、突然一人の男子が席に座ったままの伊川さんに歩み寄って行くのが、視界の端に見えた。


 なんだろ?

 普段、伊川さんに話しかける男子なんてほとんどいないのに。


 ──僕の伊川さんに何をするつもりだ?


 つい三日前に告白が成功して、付き合いだしたばかりなのに、僕はもうそんな偉そうな気分になっている。


 その男子は伊川さんの席の横に立って、ニヤニヤしながら何か彼女に話しかけた。

 あいつは──田中 竜二。


 ガラの悪い男で、一歳上の兄貴と一緒につるんで、学校の外で何やらよからぬことをやってるって噂があるヤツ。


 そんな不良チックなヤツが、真面目を絵に描いたような伊川さんに話しかけるなんて、今まで見たことがない。しかも田中は嫌らしくニヤニヤ笑ったまま。


 ──伊川さんに、いったいなんの用なんだ?


 伊川さんは座ったまま田中を見上げて、小さな声で何かを言ってる。

 はっきりとは聞こえないけど、彼女の唇は『知りません』と動いたように見えた。


 伊川さんの顔が強張こわばってる。これは何か、ヤバいことが起きてる気がする。

 僕は席を立って、さり気なく伊川さんの席に近づいた。二人が小声で話してるのを、何とか聞こえるところまで移動する。


 周りのクラスメイト達は、自分達のおしゃべりに夢中で、誰もあの二人に注意を向けていない。


「だから私じゃありません……」

「いやぁ……とぼけても無駄だぜ。公園のトイレから着替えて出てきたのはお前……間違いなく伊川だった」

「……」


 伊川さんは怯えたように身体をすくめて、黙り込んでしまった。

 これはホントに──ヤバい感じだ。

今のところ7話で一旦完結予定です。

最後にはざまぁ展開があるので、今話の嫌ぁな雰囲気の終わり方はご容赦ください(・・;)

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