魔馬車 9
隊員達がまた、雑草を刈り取る様に殺される。
「逃げろ」
薄れ行く意識の中で叫んだつもりだったが、声は弱過ぎ、届かない。
虐殺は淡々と行われた。
オデュセウス以外の全員を殺すと、再び巨人はオデュセウスの前に立った。
息を切らした様子すらない。
「いずれ逢おう」
オデュセウスは、そこで途切れた。
***
オデュセウスは、自分がだだっ広く暗いホールにいるのに気付いた。
妙に視点が高い。
「よしよし、滞りなく動き出したな。
上出来じゃ。
しかしまさかあの忌々しい魔封じめが現れるとはの。
誰の差し金なのやら」
聞き覚えのある、薄気味悪い声だ。
足元の随分下の方で聞こえる。
「オデュセウスよ、良い作品に仕上っておるぞ。
何せ二日で大陸を横切れる様に作ったからのぅ。
今のお前さんならあの忌々しい魔封じをも踏みつぶせるだろうさ。
わくわくするじゃろう?」
オデュセウスの目に飛び込んできたのは、いつかの夜現れた黒い影だった。
あの時と同じ無数の怨霊が、影を中心に激しく渦巻いている。
ただ違うのは、今そこにいる影は、どうやら実体を持っているということだった。
「何故俺に付きまとう?」
オデュセウスは尋ねた。
言葉は音ではなく、別な何かで伝わっているらしかった。
「大陸最強との呼び声高い騎兵隊の隊長こそ、この作品の魂に相応しかろうと思ったのさ。
早く死ぬのを楽しみにしておったのじゃ。
今のところ残念ながら、身体が死なぬと魂を採取できんからのうぅひひひ」
オデュセウスは例え様のない粘つく様な怒りを感じた。
この影の化け物は、命を自分の遊び道具にしている。
オデュセウスは飛掛かろうとした。
その時初めて自分の身体の異変に気付いた。