魔馬車 8
塔の入口の大扉を開けさせ、彼らは中に入った。
ありふれた戦場の城である。
灯は普通に点っている。
所々にバルダ兵の死体が転がっている。
しかしホルツザム兵の姿はない。
大きな階段を駆け上がる。
二階、三階と、ホルツザム兵の気配はない。
四階まできた時だった。
それは、いた。
広い廊下の中央に、巨人がいた。
限り無く鍛え抜かれた鋼の様な褐色の体に、獅子を思わせる真っ白な長い髪。
鎧は着けず、古びた膝丈のズボンだけだった。
上半身は裸だ。
何よりもその燃え上がる様な眼光が、オデュセウスを戦慄させた。
燃え上がっているのは眼光だけではない。
巨人の周りは炎の竜巻に似た気配が見えた。
床に突立てた剣も巨大で、巨人の背丈を優に越えていた。
ひどく武骨なそれは、血まみれだった。
巨人の周りには、ホルツザム兵が何十と死んでいた。
ガゼルらしい死骸もある。
いずれも一刀で真っ二つにされている。
もしかすると、一刀で十人近く殺されたのではあるまいか。
「これか」
オデュセウスは直感した。
自分はこの巨人に、殺される。
「名は?」
野太い声が響いた。
「オデュセウス。
我らはホルツザムの先鋒隊だ」
「俺はシ・ルシオン」
巨人は動いた。
山と積まれた死体を跨ぎ、常人では動かすことさえできないであろう巨大な剣を軽々と下段に構えた。
若い隊員が叫びながらオデュセウスの横をすり抜け、巨人に切りかかった。
が、小枝の様に薙払われ、壁に打ち付けられた。
その時にはもう、身体が上下二つに分かれていた。
一瞬起き上がろうともがいたが、すぐ動かなくなった。
目線を正面に戻すと、目の前に切っ先があった。
身をよじったが、右腕が飛んだ。
巨人はその一突きで六人を串刺にし、止って振向きざま七人を真っ二つにした。
ホルツザムきっての精鋭が虫けら同然である。
「よくかわした、オデュセウスよ。
俺はお前を探しにきた」
切り飛ばされた腕から血が噴出し、身体が冷たくなっていく。