魔馬車 7
派手な兜をかぶった首が跳ね飛んだ。
この将は河岸守備隊の主将であった。
にわかにバルダ陣は崩れた。
そこへホルツザム勢本隊が押し出す。
こうなればもう決着はついたも同然である。
渡河を終えたホルツザム軍は、砦前に陣を張る。
すぐに破城棍部隊が前進した。
破城棍で城門をしばらく突くと、門は破れた。
ホルツザム軍は砦になだれ込んだ。
守備隊は次々に蹂躙され、辺りは地獄絵図と化した。
オデュセウスはバルダの守備隊総指揮官ラッセルをさがし、馬を捨てて走った。
中央の塔に指令室があると聞き、すぐそちらに向かう。
既に指令室には何十名かの兵が詰め掛けていた。
「様子はどうだ、ラッセル将軍はいるのか?」
オデュセウスが尋ねると、兵の一人が応えた。
「はっ、只今ガゼル殿が手勢五十名を率いて中に」
「いつ頃?」
「左様、十分はたちますか」
それ程大きな塔ではない。
やや時間がかかっているらしい。
オデュセウスはやがて集まってきた自分の隊員達とともに、ガゼルが出てくるのを待った。
しかし、一向に出てくる気配がない。
「妙だ」
かれこれ四半刻は過ぎている。
だというのに、ガゼルが出てくるどころか、静まり返っている。
「先鋒隊員、全員戦闘構え!
これよりこの塔に討ち入り、ガゼル殿を救出する!」
先鋒隊はまだ全員健在である。
ホルツザム最強と言われる小隊全員の顔に緊張が走る。
オデュセウスには感じられた。
何か異変が起こっている。
意外な抵抗か、罠か、あるいは別な何かか。
ただ、ガゼル率いる部隊が危険にさらされているのは間違いない。
時間が、それを雄弁に語っていた。