魔馬車 6
オデュセウスの隊は、全員軽めの鎧をまとい、矢よけの大きい盾を抱える。
槍は持たず、背中に剣を背負う。
そして馬上凛然と対岸を見据えていた。
「今日の一戦、進むも死、退くも死である。
逃げたきものは構わぬ、今ここで去るがいい」
隊員達は誰も身じろぎ一つしない。
「よくぞ覚悟した。
では我らこれより修羅に入る」
やがて狼煙が上がった。
対岸の上流側で、馬蹄の音がばらばらと聞こえた。
「進め!」
川面に漂う朝もやを吹き払うかのような怒号を放つ。
オデュセウスの先鋒隊は、盾を構え、刹那の戸惑いもなく渡河を開始した。
川は馬の腹辺りまでの深さで、思う様に進まない。
そうこうするうちに対岸から矢がバラバラと降ってきた。
多くは盾で防がれるが、対岸の奇襲部隊が制圧されつつあるのか、次第に矢の数が増えてきた。
半ばまで川を渡った所でオデュセウスは、
「まずいか」
と思った。
その時対岸で騒ぎが起こった。
第二の奇襲部隊が攻め入ったらしい。
矢の数が減り、歩みが速くなった。
折よく川が浅くなる。
オデュセウスの隊は、水飛沫を壁の様に上げながら突き進んだ。
「続け!」
オデュセウスは盾を捨て、背中の剣を抜き払った。
止らない。
はやてのようにバルダ軍の守備隊に突っ込み、次々と血の噴水を作った。
「奴はオデュセウス!
討取れば褒美は思うがままぞ!」
「怯むな! 止めよ!」
敵方の将が叫んでいるらしい。
オデュセウスはそちらに馬を返した。
混乱したバルダ陣は、彼が進めばなますの様に裂けた。
やがて敵将の姿を捉えた。
オデュセウスは魔人の叫びを上げた。
敵将との距離が瞬く間に詰まる。