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魔帝  作者: 松本 力
魔馬車
5/192

魔馬車 5

 墜ちていく間、オデュセウスは何度もそう繰り返した。

やがて全てが消えた。


「起床! 進発の時刻である! 起床!」


 振れの声に、オデュセウスは飛び起きた。


 既に辺りは明るく、進発の準備が始まり、騒がしかった。


 オデュセウスはしばらく状況が飲み込めなかったが、やがて


「夢か」


と理解した。


 全身がぬめるような汗にまみれ、息苦しさがまだ残っていた。


 軍人は人殺し稼業である。

軍に入った頃は毎日うなされていたし、最近でも時々見る。

今日もそのたぐいなのだろうと思った。


「まあ多少、いつもよりは不気味だったがな」


 夢の事はやがて忘れて、出発の仕度をした。


 戦場は東へ移動した。

バルダ領内に踏み込み、バルダ西側国境の拠点ザーグ砦の攻防となる。

背後をザーグ山に囲まれ、正面からしか攻め入れない。

しかも正面には川が流れており、渡河する間に多くの犠牲が出る。

難攻不落の堅城である。


 オデュセウスは七年前、一度この城を攻めたことがある。

その時も将軍はバルザムで、敵将ドバイルに惨敗した。

それがきっかけで国境越えを許したのだ。


 しかしドバイルは昨年、病に倒れた。

ドバイルなきバルダは、バルザム率いるホルツザムに容易く押し返された。

ドバイルがいれば、先日の戦闘もあれ程簡単ではなかったはずである。


「卿らも知ってのとおり、まずは渡河である」


 バルザムは攻撃前夜、作戦を発表した。


 まず未明、少数の部隊で川のはるか上流と下流から二手で渡り、夜明けと同時に狼煙を上げ、対岸の守備兵を、まずは上流から奇襲する。

同時に川を渡りはじめる。

頃合で二度目の狼煙を上げ、下流から奇襲。

これで時間を稼ぎ、先鋒隊が渡河を終え、川沿いの守備兵を掻き乱す。

さらに本隊が渡河し、対岸を制圧する。

この後で破城棍隊を渡河させ、攻城戦に入る。


「なるほどこれは、死ぬかも知れん」


 内心オデュセウスは思った。

掻き乱すと簡単に言っても、対岸には二千の兵が守りを固めている。

しかも渡河戦。

退いても生きては帰れまい。

半ば無謀に近い。

だがこういう決死隊としての死に方なら、悪くなかった。

どうせこれぐらいしか方法はないのだろう。

ならば将軍の賭けを引受けてやろうと思った。


 夜が過ぎ、黎明になった。

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