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魔帝  作者: 松本 力
魔馬車
4/192

魔馬車 4

 死をさらに凶悪にしたような、あるいは限り無い数の死か、あるいはそれらが死にながら生きている様な、あらゆる戦場でも感じた事のない気配だった。


 オデュセウスは腰の短剣で振り向きざまに、決死の思いでその気配を薙払った。


「おお、怖いねぇ、ひゃっひゃひゃ」


 短剣は空を切った。

オデュセウスの全身から冷たい汗が噴出す。


「何者だ!」


「お告げの魔導師、ぐらいでどうかねぇ」


 そこには、墨の様に黒い影がいた。


 ぼろ布をまとった人間のような何かだが、少なくとも人間とは思えなかった。

その影を中心に、怨霊が渦を巻いて見える気がした。

腹の底から震えが込み上げてくる。

歯がガチガチと鳴り、止められない。


「英雄オデュセウス隊長、お前さんに予言してやろう」


 頭の中に直接声が響く。

何千年も生きた老人の様にしわがれ、深い洞窟のように低く木霊する。


「次の砦攻めで、お前さんは死ぬ。

 憐れよのぅひゃひゃひゃ」


「だ、黙れ!」


「黙っても同じさ、死ぬんだから仕方がないひひひひ、魂だけなら生き残るすべもあるがねぇへへひひひ」


 影の化け物は、懐らしき所から赤くぎらぎら光る小さな玉を取り出した。


「お前さんにこれを埋め込んでやろう」


 赤い玉が黒い影の手元からふわりと離れ、オデュセウスの心臓めがけてゆっくりと飛んで来る。

オデュセウスは金縛りにあったように動けない。


「やめろ! やめてくれ!」


 赤い玉は燃える様に光り、目の前を覆い尽くす。

指先程の大きさのはずだが、飲み込まれる。


 ついに玉はオデュセウスのあばらにめりこんだ。

焼き鏝をあてられた様だ。


 オデュセウスは叫んだ。

まるで断末魔だった。

じりじりと心臓が焼け焦げる。

全身が激しく痙攣した。

意識が赤い光と無限の闇の渦に支配される。

だというのに、恐怖だけはますますはっきり強くなる。


 突然、辺りが闇と沈黙に包まれた。


「これでよし。

 もうお前さんはいつ死んでも大丈夫。

 きちんと魂を回収してやるよ。

 うふふひゃははは」


 どこかに果てしなく墜ちていく。

黒い影が去っていくのがわかる。


「あぁ、死ぬのだ」

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