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魔帝  作者: 松本 力
氷の女神
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氷の女神 8

 バザは、ビシュラの西辺境に位置する都市である。

古くからトルキスタ聖教の聖地の一つとして知られる。

もう廃れたが、かつてはバザ大聖堂に代表されるビシュラ建築の隆盛を支えた街だった。


 ホルツザムと長く続いている戦乱が、この街を荒廃させた。

今では大聖堂への巡礼者も減った。


 トルキスタ聖教は、かつて大規模な魔導師狩りや魔女狩りをした程に、魔を忌み嫌った。

聖典には、神と悪魔が戦い、悪魔を魔界に封じる様子も記されている。

しかし最近では、金や女、あるいは薬や酒による快楽のために禁忌を破る司教も現れていた。


 シ・ルシオンが到着したのは、春だった。


 治安が悪いのは、すぐにわかった。

ごろつきが街を闊歩し、家を失った者達が路上にあふれている。

ごろつきが意味なくそうした人々を襲う。

病と麻薬が蔓延しており、道端でレイプしているのもいた。


 シ・ルシオンは、眉一つ動かさない。

無人の原野を歩く様に進む。


 彼はトルキスタの教会を一軒ずつ回った。


「禁断の部屋は、どこだ」


 司教達に尋ねても、もっぱら返事はこうだ。


「知りたくば、神に対する礼儀がそれなりにあろう」


 判で捺したように同じ返事と歪んだ顔だった。


 これに対しシ・ルシオンは、


「なら、貴様の命を贄として捧げよう」


と言って、司教一人一人の首を万力のような力で締め上げた。

堕落した司教たちはすぐに口を割る。


「し、し、知ら、知らぬ、知らぬのだ」


 その途端、もうシ・ルシオンはその司教に興味を失う。

ぼろ雑巾の様にその辺へ無造作に投げ捨て、教会を立ち去る。


 そんな事を数日繰り返せば、もう彼の噂は市中の教会にくまなく行き渡る。

入口で彼の姿を見ると、必死で入口を閉める。

あるいは居留守だ。

だが彼には全く通用しない。

瞬時に居留守の気配を見抜き、平気で入口をぶち破り、司教を見つけては引き摺りだし、締め上げる。


 だが、成果はない。

禁断の部屋は、誰も知らなかった。


 そうこうするうちに、いよいよ警備兵も繰り出して来た。

が、シ・ルシオンには全く歯が立たない。

その日のうちに、警備兵も来なくなった。


 捜索四日目の日没ごろである。

バザ市街の南部にある貧民街に、彼はやってきた。

ただでさえ荒れたバザ市の中でも、貧民街は酷かった。

女子供が売春を持ち掛けて来るし、屍体が道端のゴミに混じって至る所に転がっている。

異臭がひどく、不潔だった。

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