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魔帝  作者: 松本 力
ソルドの墓
187/192

ソルドの墓 6

 ソルドは、人だった。

魔術にも似たあやかしを使いこなした伝承もあるが、しかし人だった。


 ローブは慎重にソルドの遺体に近寄り、彼が記した古文書を静かに滑らせた。

本もミイラも保存状態が良い。

本は崩れることもなく、簡単に持ち上げられるぐらいだった。

文字は、既に見慣れた筆跡、すなわちバザ大聖堂にあった古文書と同じ筆跡だった。


 ローブは古文書のページを慎重にめくり、その冒頭を読み始めた。


 最初に彼の目に飛び込んで来たのは、


「ここまで辿りついたあなたの情熱に感謝する」


という言葉だった。


「始めに、この空間のことから説明する。

 神や魔王、冥王がもっとも恐れた精霊の王ハルバン、そして今は亡きかの王の力を引き継ぐ王女リーファ。

 ここは彼女の持つ究極の能力を除き、ありとあらゆる力を拒絶する結界である。

 ブサナベンのごときあやかしの類いはもとより、魔王、ひいては全てを見る神の目でさえ、この場所は拒絶する。

 まずはこれを作った偉大な魔導師ルクフェルに感謝したい。

 これから、この結界の中でしか伝えられぬ、極めて危険なことを伝える。

 私は信じる。

 あなたがこの世界を裏切らぬことを、信じる」


 ローブは少しため息をついた。


「随分重いね」


 彼はためらった。

これ以上この本を読み進めても良いものか。

しかし読み進めれば、確実に大賢者ソルドの遺言を背負うことになる。

すなわちそれは、この世界の命運を背負うことに他ならない。

「大賢者」とまで呼ばれた人が後の世の託した世界の命運。

それは、途方もない重圧に感じられた。


「ちっ」


 ローブは舌打ちした。


「死ぬのは嫌だ。

 この世界が滅ぶのもまっぴらだ」


 ふと彼の脳裏に、闇の魔導師の姿が浮かんだ。

魔導師の目論む魔界門の解放。

千年前、同じことを考えた大魔導師ブサナベン。

それを食い止めたトルキスタの三聖人。

そしてソルドが徹底的に隠した、神にさえ隠した何か。


「わかったよ、大賢者様」


 ローブは腹を決めた。


「読めばいいんだろ、読めば」


 ローブは天井を仰いだ。

そして、半ば絶望に似た気持ちで、大賢者ソルドのミイラのそばにあぐらをかき、古文書を読み始めた。


 数ページを読めば、彼はその内容に驚愕した。

そこにあったのは、トルキスタ聖教の神話であった。

だがそれは、彼の知るどんな古文書にも出てきたことのない内容だった。

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