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魔帝  作者: 松本 力
最後の書
177/192

最後の書 6

 ローブの求めに、フェリスは少し奥へ入り、しばらくするとかぐわしい紅茶を淹れて運んできた。

ローブはそれを受け取り、口にふくむ。


「うまい」


 春先の肌寒い天気だったから、程よく熱い茶が体に染み渡るようだった。


「シ・ルシオン様はお元気?」


「あぁ、今日は一緒に来てるよ。

 呼ぼうか?」


 ローブがそう尋ねると、フェリスは少し驚いた顔をし、わずかに目を泳がせたが、やがて首を左右に振り、穏やかに笑った。


「後でね。

 そんなことは、あなたの用事が終わってから」


 ローブはわずかに絶句した。


「あんたにはかなわない」


 ローブは低く言った。


「なに、例の大聖堂の地下にあった古文書さ。

 一冊足りないからどこだって女神様に聞いたら、答えられないんだってさ。

 参ったよ」


 ローブは右手で頭を抱え、金の髪をぐしゃぐしゃ握った。


「大賢者ソルドが禁じたらしくてね。

 そのあと女神様もご乱心さ。

 あからさまに何かが、あるんだよな。

 でもなぁ、手がかりらしいものが何もない」

 

 ローブはぴしゃぴしゃと額を叩き、首を左右に振る。


 フェリスは黙ってその様子を見ていたが、やがて言った。


「そうねぇ、ソルド様が戦争のあとどうなったか、ほとんど何もわからないものね。

 リーファ様のような精霊でもなく、ドルアーノ様のように戦死されたわけでもないのに、墓所さえわからない。

 戦争のあとでわかってるのは、三ツ又槍は真北を指すように、っていう言葉と、神と三つの奇跡を約束した、というお話だけ。

 難しいわね」


 フェリスは目を祭壇に向ける。

この教会は祭壇が真北で、椅子の間の通路で三つ又槍を作っていた。

トルキスタ聖教の施設には、ソルドの遺言に従って、このような三つ又槍が必ずある。


「だろ?

 難し…」


 ローブはふと言葉を止めた。

しばらく何かを考え、そして言った。


「俺の用は終わったよ。

 旦那を呼んでくる」


 ローブがそう言って席を立とうとすると、今度はフェリスが動揺した。


「どうした?」


 敏感なローブは、足を止めて振り返り、尋ねる。


「あの、その、えっと、だからその」


「惚れたか?」


「バカ、そんなんじゃないわよ。

 あれ以来なのよ。

 どんな顔をして会えばいいのか、わからないのよ」

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