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魔帝  作者: 松本 力
最後の書
176/192

最後の書 5

「軽薄は余計だよ」


 ローブは少し安心して、悪態をついた。


「じゃぁな、また来るよ。

 行こうか、旦那」


 ローブが促すと、それまで一言も喋らなかった巨人は、やはり無言でうなずき、巨大な剣を担ぎなおした。

まだ少しためらっているローブを置き去りにして、聖地を降りようとする。

ローブはあわててその跡を追う。


「あんたから俺たちを呼べたら、いいんだがな。

 が、まぁ今日は行くよ」


 ローブは軽く手を振り、ようやく後ろ髪引かれるのを引きはがした。


 翌夕方には二人は下山し、漆黒の魔馬車オデュセウスのところへ戻ってきた。


「首尾は?」


 オデュセウスが尋ねると、ローブは首を横に振る。


「そうか」


 苦い顔をするローブに、オデュセウスはそれ以上なにも言えなかった。


「悪いが、バザへ頼む。

 頭の整理をしたいんだ」


 ローブと巨人は、オデュセウスの馬車に乗り込んだ。


 五日後、彼らはバザに到着した。

例によって郊外の目立たない場所にオデュセウスは留まり、ローブと巨人が二人で市街に向かう。


「随分良くなった」


 二十数年前のバザの惨劇を思い出すと、今は非常に美しくなっていた。

マイクラ・シテアによる破壊もさることながら、そもそも街が荒れていた。

結局自治領主だったコロネオの統治が芳しくなかったのだろう。

今は、教会本部から統治官が派遣され、総帥ロドが聖騎士団を厳しく統制している。

ローブ自身、この自治区には様々な手を尽くしてきたつもりだった。


 だが今回は、別に復興状況の視察でここに来たわけではなかった。


 二人は質素で今にも崩れそうな、しかし実に美しく清掃され、花がそこかしこに咲く教会へやってきた。

ローブだけが、朽ちそうな扉をくぐり、呼ばわると、奥からパタパタと足音がした。

足音の主は、ローブの顔を見ると、きらめくように笑った。


「あら、珍しい。

 相変わらず」


「軽薄そうだってか?」


 フェリスである。

お互いに中年と言っていい年齢になった。

出会った頃は、リーファに本当にそっくりで、拭えない影はあり薄汚れた格好だったが、実に美しかった。

今でも充分美しいが、少し老けた。


「お茶がほしい」

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