表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔帝  作者: 松本 力
最後の書
175/192

最後の書 4

 ローブは少なからず驚いた。

リーファは、自分以外の誰かに対して叫んでいた。

怒りをぶつけていた。

リーファとはかれこれ二十年近く関わっているが、これほど激するのは、初めて見た。

また、初めて彼女が、人外の存在であると感じた。


 そして、今リーファに見えている存在も、おそらく人外の存在。

しかもそれは、この地上にとって、非常な危機をもたらす存在らしい。


 この時ローブは、一つの疑問を持った。


 実はまだ、千年前の戦いは、トルキスタの聖典に記された聖戦は、肝心のところが決着していないのではないか。

決着が、先送りされただけなのではないか。

だからこそリーファは、これ程に動揺しているのではなかろうか。


 ローブは少しため息をついて、肩をすくめた。


「もういい、そう泣くな。

 女を泣かすのは趣味じゃない」


 ローブの穏やかな声を聞いて、リーファは少し落ち着きを取り戻した。

その頬は涙に濡れ、呆然とした様子だったが、しかしもう、荒れた様子はなかった。

彼女が落ち着くと、吹雪き始めていた周囲の空気が、また穏やかになった。


「ごめんなさい、私…」


 リーファは震える声で呟いた。


 ローブは首を左右に振る。

少し伏し目になりながら、彼はわずかに笑っていた。


「大賢者ソルド、か。

 すげえ奴がいたんだな」


 ローブは顔を上げ、辺りを見渡した。


「質素な聖地だ」


 彼の言う通り、ここは聖地と呼ぶにはあまりにも質素なところだった。

だが彼は、別にそんなことを言いたいのではなかった。

彼は言葉を探して彷徨っていたのだ。


 やがて彼は、意を決したようにリーファを見上げた。

それでもまだ少し切り出しにくい様子だったが、何とか言葉を絞り出した。


「あぁ、その、何だ、そろそろ行くが、大丈夫か?」


 その言葉を聞くと、リーファは少し笑った。


「本当にあなたはソルドに似てる」


 彼女は懐かしい思い出を見るような眼差しで、ローブを眺めた。


「ソルドは私が泣くと、女の泣くのは苦手だとか、もう行くけれど大丈夫か、とか。

 いつもは軽薄なふりをしてるくせに」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ