最後の書 3
聖地ラダのある山地の麓で、ローブは防寒具を準備する。
巨人は靴をはきかえただけだった。
二人は朝を待ち、山に分け入る。
しばらくすると山道には雪が目立つようになり、夕刻には雪が舞い始めた。
二人は小枝を集めて岩影で暖をとり、一夜を過ごした。
多少冷え込んだものの防寒具が役に立ち、ある程度休めた。
疲れを知らない巨人はともかく、ローブは随分助かった。
翌昼過ぎには、質素な聖地に到着した。
いつものように雪に埋まった氷壁を掘り出す。
いつものように、息をのむほど美しい女が、姿を表した。
陽光に煌めく紺の髪は華やかで冷たい艶を放ち、あらわな肌は透き通るように白く、きめ細かかった。
「リーファ、教えてくれ」
ローブは声を掛ける。
だが、女は、少し困惑した顔で、首を横に振った。
「ソルドの最後の書について、私は言えません」
ローブは一瞬意味がわからなかった。
だが、その意味を理解すると、リーファに詰め寄った。
「何でだよ、大事なことなんだ」
「ソルドに、禁じられています」
そう言われると、ローブは二の句を継げなかった。
口を何度か開け閉めして、そのまま黙ってしまう。
しばらくしてようやく、
「何でだよ」
と、吐き出した。
リーファは、少し震える声で、
「それは、あなたが考えている通りの理由です」
と返した。
ローブは顔を上げた。
「それほどなのか。
最後の書は、それほどの意味があるのか」
しかしリーファは答えない。
目を泳がせ、手をもみ、やがて泣き出した。
「私は言わないわ。
言わない!」
リーファは、悲痛に叫んだ。
その激しい感情がほとばしると、辺りに冷気が渦巻き始めた。
「あなたの望む通りになんか、させないわ!
この大地は、ここに生きる全てが、あなたが思うのなんかより、ずっとずっと大切なものなのよ!」