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魔帝  作者: 松本 力
最後の書
174/192

最後の書 3

 聖地ラダのある山地の麓で、ローブは防寒具を準備する。

巨人は靴をはきかえただけだった。

二人は朝を待ち、山に分け入る。

しばらくすると山道には雪が目立つようになり、夕刻には雪が舞い始めた。

二人は小枝を集めて岩影で暖をとり、一夜を過ごした。

多少冷え込んだものの防寒具が役に立ち、ある程度休めた。

疲れを知らない巨人はともかく、ローブは随分助かった。


 翌昼過ぎには、質素な聖地に到着した。


 いつものように雪に埋まった氷壁を掘り出す。


 いつものように、息をのむほど美しい女が、姿を表した。

陽光に煌めく紺の髪は華やかで冷たい艶を放ち、あらわな肌は透き通るように白く、きめ細かかった。


「リーファ、教えてくれ」


 ローブは声を掛ける。


 だが、女は、少し困惑した顔で、首を横に振った。


「ソルドの最後の書について、私は言えません」


 ローブは一瞬意味がわからなかった。

だが、その意味を理解すると、リーファに詰め寄った。


「何でだよ、大事なことなんだ」


「ソルドに、禁じられています」


 そう言われると、ローブは二の句を継げなかった。

口を何度か開け閉めして、そのまま黙ってしまう。


 しばらくしてようやく、


「何でだよ」


と、吐き出した。


 リーファは、少し震える声で、


「それは、あなたが考えている通りの理由です」


と返した。


 ローブは顔を上げた。


「それほどなのか。

 最後の書は、それほどの意味があるのか」


 しかしリーファは答えない。

目を泳がせ、手をもみ、やがて泣き出した。


「私は言わないわ。

 言わない!」


 リーファは、悲痛に叫んだ。

その激しい感情がほとばしると、辺りに冷気が渦巻き始めた。


「あなたの望む通りになんか、させないわ!

 この大地は、ここに生きる全てが、あなたが思うのなんかより、ずっとずっと大切なものなのよ!」

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