氷の女神 6
「なぜ、人々は死ぬと思うのだ」
リーファはまだしばらく泣きやまず、嗚咽をした。
美しい顔が、涙でくしゃくしゃになっていた。
随分長い間、シ・ルシオンは待った。
リーファの嗚咽が徐々に静まっていき、ようやく彼女は少しずつ喋り始めた。
「マイクラ・シテアという魔導師がいて、その者が、人々を殺戮します。
そのための手段を今日、マイクラ・シテアは知るのです。
その昔、トルキスタ聖教の高僧達が封印した禁断の部屋に入って、禁断の書を奪います。
そこに書かれたことが、いずれ彼に破滅的な力を与えてしまいます。
そして、それが更なる、取り返しのつかない災いを引き寄せます」
「なぜそこまでわかっているのなら、お前が止めないのだ?」
「私は、ただ、知ることしかできないのです。
私は愚かで、知ってもなお、どうすることもできませんでした。
でも、ある小さな女の子が教えてくれました。
魔法が悪いのなら、魔法を封じたらいいと」
リーファはシ・ルシオンを、藍色の澄んだ瞳でじっと見つめた。
その瞳には、不安や恐怖が漂いながらも、その核心には、重く厳しい決意に似た輝きがあった。
「あなたは魔封じだと、私は知りました」
「理解できぬ」
諦めた様にシ・ルシオンは吐き捨てた。
「それは、私が愚かだからですか」
「そもそも魔導というものが本当にあるのかが、俺には全くわからぬ。
それに、俺はお前のために何をしてやればいいのかもわからぬ。
マイクラ・シテアという者の名も初めて聞いた。
俺が魔封じと言うが、そんな確証はどこにある。
わからぬことばかりだ。
理解できぬ」
シ・ルシオンは、小さな溜息をついた。
「俺は戦士だ。戦えと言うなら戦う。
せめて、今俺に何をしてほしいかぐらい、言うがよい」
その言葉を聞くと、リーファは顔を輝かせた。
「ああ、ありがとう、ありがとう」
またリーファは泣き始めた。
シ・ルシオンは半ばあきれていた。
女というのはこうなのか、と疑った。
彼は今まで、女を抱いたことはあるが、こんな形で関わったことはなかった。
全然彼の期待と違う反応をするし、簡単に傷ついたり喜んだり、そして泣き出す。