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魔帝  作者: 松本 力
月光
169/192

月光 11

 やがてついに、一度破壊された城門の近くが破られる。


 時折しも、満月の南中。


 バルザムは斧を振り上げた。


「よし、突げ…」


 その時バルザムは、背後に凄まじい気を感じた。


 バルザムは声にならない悲鳴をあげ、コマのように振り返った。


 背後、と言うには、あまりにも離れた場所。

しかしバルザムには、はっきりわかった。

月光の輝きの真下、最初に彼がボルネット城を見下ろしていた丘。

雪で覆われ、なだらかで青白く輝く丘。


 その頂上に、それがいる。


 魔物たちが、筆舌に尽くしがたい強烈な気に威圧され、凍りついている。


 バルザムの魂も、魔神に握りつぶされた様だ。

恐怖という陳腐な言葉ではなく、あるいは絶望その物でさえ、生ぬるく感じられる。

破壊、地獄、殺戮、そんな言葉の全てが、その気と比べれば、何と生ぬるいことだろうか。


 バルザムは、狂ったように叫んだ。


「シ・ルシオン!」


 バルザムの視線の先、青白い丘の上。

月光に照らされ、青く、黒い姿。

荒々しい熊革のマントをなびかせる巨人。

そして巨人は、漆黒の巨馬が引く、巨大な馬車に跨がっていた。

手には、この世でこの巨人以外には誰も扱えないであろう、計り知れないほどの豪槍を握る。

限りなく鍛え上げられた体は、この極寒でも陽炎が立つほどに、熱く燃えていた。


「全軍反転じゃぁ!」


 バルザムは叫んだ。

恐怖を否定するように叫んだ。

だが彼は、人にあらざる身だから震えてはいなかったが、まだ生身であったなら、立ってさえいられないほどに震えていただろう。


 しかしバルザムは叫ぶ。


「わしは貴様を殺すためによみがえった!

 人を捨て、強くなった!

 もう貴様の好きにはさせぬ!」


 そしてバルザムは、その手に握る巨大な戦斧を雪原にたたきつけ、吼えた。


「続けえぇ!」


 奇しくもその声と同時に、月光に輝く丘の上で、巨馬が高々と立ち上がり、いなないた。


 バルザムは丘に向かい、駆け出す。

魔物の群れも黒々とした帯のように、それに続いた。


 そして丘の上から、月光を背に悠然と構える巨人を乗せた、漆黒の巨大な馬車が、幻想的に動き始めた。

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