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魔帝  作者: 松本 力
月光
168/192

月光 10

 ボルスは先の会議には参加しなかったが、その顛末はガイルから詳しく聞いている。

のろしのこと、シ・ルシオンのこと、そして実質的主催者である、胡散臭い軽薄そうな青年のこと。

南方の大国ベイシュラのゴート将軍がどういうわけか丸め込まれたので、ガイルは酷く警戒していた。


「今回の魔物どもの襲撃が、あの若僧の意図によるものかどうかは、現時点ではわかりません。

 しかし、私自身が現実に、あの若僧よりも明らかに、遥かに、極めて危険な者に遭遇しました。

 そしてそれは、あの会合で、あの若僧が強く示唆していた事です」


 ガイルは胸の辺りを包帯で巻かれた手で押さえ、苦しそうにした。

呼吸に雑音が混ざり、酷く具合が悪そうだった。


「ガイル殿、ひとまず今日は、お休みください」


 いたたまれない様子でボルスはそう促した。

ガイルは返事もろくにできず、何度かうなずくのがやっとだった。

ボルスは輿の担ぎ手に指示して、ガイルを将校専用の医務室へ運ばせた。


 ガイルは心配だが、しかしボルスには憂慮することが他にある。

再び魔物の軍勢が攻勢を仕掛けてきた。

兵士たちは二日間の疲労が蓄積し、限界に近い。

敵将はここぞとばかりに総力戦を選んだらしい。


「中央大陸の英雄将軍バルザム、か」


 無論知っている。

ボルスがまだ少年だった頃、ホルツザムの領土拡大の立役者として活躍していた。

緻密ではないが、豪胆かつ狡猾、期を見るに敏。

士気を高め、死を恐れぬ「死兵」の大軍を率い、隣国を侵略する。


「勝てるのか」


 しかしガイルがあの様子では、自分しか頼れない。


「みな、今宵こそが正念場だ!

 守ろうぞ、大切な家族を、友人を、軍人としての誇りにかけて!」


 冬の月は南に高く、相変わらず円く輝いている。

雪原は青白く、そしてその上を、化け物の大軍が侵食している。


 城壁に魔物たちが殺到する。

陸も空も、奇怪で邪悪な存在がうごめき、兵士たちは果敢に戦う。

砲撃が、弩弓が、唸る。

魔獣が吠え、兵士たちを食い荒らす。


 しかしバルザムが再び最前線に進出し、城壁の破壊を強力に指揮すると、難攻不落の城壁が揺らぎ、ひび割れ、剥がれ始める。

魔物の中でも際立った豪腕が壁に何度も何度もぶち当たると、人間の造作は、所詮脆かった。

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