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魔帝  作者: 松本 力
月光
167/192

月光 9

「退けぃ!」


 バルザムは迷わず命じた。

中の軍勢を失うのは痛い。

しかし、救出は恐らく非常に難しく、単に犠牲が増えるだけだろう。


「魔物どもなど」


 どうでもいい、というのが彼の本音だった。


 城に取り残された魔物たちは、バルザムが前線を離脱して程なく、すりつぶされるように全滅した。

だがバルザムは、数が減った、という以上の何も、別段感じなかった。


 一旦彼は、もといた少し高い場所へ魔物の軍勢を退いた。

そこで体制を立て直す。

城からの追撃はなかったので、数こそ減ったものの、十分な陣形を整えた。


 もうそろそろ午後、早くも日が沈みつつある。

午前中ちらほらと舞っていた雪は止み、少し雲が切れてくる。

冬場いつも曇天のこの地方では、最近の晴れ模様の多さは近年まれに見るものだった。


 やがて日が落ちる。

この頃になると空は見事に晴れ、東の山に満月が浮かんだ。

ごく淡い黄色の光が雪原を照らし、景色は青白く、明るかった。


 この頃、ボルスはようやくガイルに対面できた。


 ガイルは板でできた急ごしらえの輿にのり、第三城壁の陸屋根に現れた。

全身包帯だらけで、顔も隠れている。

しかしわずかに覗く鋭い眼光は、決して見紛うことなく、ガイルのそれであった。


 ボルスは、木の台にとりあえず置かれたガイルの輿に駆け寄った。


「よくぞご無事で!」


 見ればガイルは丸太に胸や腹をくくりつけて体を支えていた。

そうでもしなければ、起きていることさえ困難なのだろう。

ボルスは戦場であり、多くの部下も周りに多いゆえに、なるべく平静を保とうとしたが、それでも言葉につまり、ギョロ目に涙が浮かんだ。


「ボルス殿、迷惑を掛けました。

 この通り、生きています。

 そんなことより」


 酷い声だった。

目元を見れば、どうやら熱もある様だ。

あの吹雪をくぐり抜けたのだから、無理もなかった。


「魔物どもの将は、ホルツザムのバルザム将軍らしい」


 ボルスはすぐには意味が理解できなかった。

が、やがてそれを理解すると、


「まさか」


と、思わず言った。


 しかしボルスにはわかっていた。

ガイルは今まで、彼に対し虚言を言ったことがない。

恐らくそれは、かなりの確度で本当であろう。


「どうも、トルキスタの若僧が言った法螺話が、現実味を帯びてきているのです。

 現に私は吹雪の中で、バザの惨劇の犯人と出逢いました」

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