月光 8
バルザムは少し苛立ち、巨大な戦斧を大きく凪いだ。
「いよいよ出張るか」
バルザムは、わざと最前線に参加していなかった。
魔物たちは、個々は強いが、気ままでまとまりがない。
バルザムが前線にいない状態では、言わば二軍である。
そこへバルザムが参入すれば、意気は上がり、より強い軍となろう。
それは、彼がよく使う二段攻撃の形に近いものだった。
バルザムは手勢二十ほどを率い、なだらかな雪の高台を下り始めた。
巨体が悠々と進み、やがて城壁前の主戦場へ殴り込む。
弱りかけていた魔物たちはたちどころに意気を吹き替えし、城門や城壁に激しい攻撃を浴びせた。
空からも一層の攻撃が降り注ぎ、再び魔物たちが優勢となった。
ボルスはその様子を、第三城壁から見下ろしている。
「頃合いか」
彼は苦い顔でそう呟く。
そして伝令に告げた。
「第一城壁から撤収だ」
まだ決定的な危機ではない。
しかしボルスは撤収を命じた。
伝令が速やかに城壁の尖塔に向かい、やがて打楽器がやかましく鳴らされ、黄色の大きな旗が振られた。
第一城壁の上にいた部隊は、即座に城壁の中へ階段で降り始める。
非常に迅速だった。
またこれらの部隊がほぼいなくなると、城壁内の部隊も一気に第二城壁へと撤収をした。
見事である。
が、第一城壁は無防備となる。
魔物たちは一気呵成に城門を攻めた。
程なく城門は打ち破られ、百ほどの魔物が第一城壁の内部になだれ込んだ。
バルザムはどこかに違和感を感じた。
「何だ?」
バルザムは、魔物たちが破壊された門から次々に入っていくのを見ながら、自らは足を止めた。
およそ百が入った頃、それは現実となる。
破壊された門の所に、見るからに頑丈な鉄柵が上から落ちてきて、再び塞いだのだ。
バルザムは間一髪柵の外にいたが、魔物たちでもそう簡単に策を破れそうにない。
そしてそこへ、第二城壁からの砲撃が始まる。
それだけでなく、先ほど一旦撤退したはずの第一城壁の部隊も再び現れ、取り残された魔物たちに油樽を投げ、火攻めを始めた。