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魔帝  作者: 松本 力
氷の女神
16/192

氷の女神 5

 しかし、リーファは食い下がった。


「夢ではありません」


 まるで彼女はシ・ルシオンの心の声を聞いたように、そう答えた。


「私の手を、握ってください」


 そう言って、リーファはシ・ルシオンの無骨な手を、随分小さく細く見える白い両手で取った。

体の熱を吸い取るような冷たさに、彼は少なからず驚いた。


「私は、こうして、あなたの手を取れるんです。

 私は氷の精霊だから、すごく冷たいです。

 でも、こうして現世に現れて、あなたの手を取ることもできるんです。

 夢じゃないでしょう?

 わかったでしょう?

 まだわからない?」


 シ・ルシオンは、この女がよく判らない。

ただ、彼女が必死に何かを訴えようとしている。

それだけは理解できた。


「私には見えるの。

 魔導師マイクラ・シテアが今夜、禁断の部屋に入る」


「お前は何者だ」


 射抜く様な目でシ・ルシオンはリーファを睨んだ。

彼は女を信じていなかった。


 リーファは顔をこわ張らせた。

戸惑った。

彼女は素直で、今までに目の前の巨人のような対応をされたことがないのだ。


 彼女は静かに泣き始めた。

自分が泣き始めたことに驚いてもいた。


「事と次第によっては、今この場でお前を斬る」


 さらにシ・ルシオンは追いつめた。

今度は逆に、リーファは深い恐怖を感じた。


「私は、ただ、危ないから、あなたに、助けてほしいと、そう思って」


「そんなわけのわからぬ話を、にわかに信じるとでも思ったか」


「そんな、そんな、ひどい」


 彼女は両手で顔を覆い、わあわあと子供のように大きな声で泣き出した。


 シ・ルシオンは、泣きじゃくるリーファを燃え上がる眼光で睨み続けた。


 だがやがて、深いため息をついて言った。


「そう泣くな」


 シ・ルシオンは、ようやく大剣を鞘に戻した。

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