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魔帝  作者: 松本 力
北の竜
155/192

北の竜 9

「むぅ」


 ガイルは唸った。

振り返ると、巨大な鎧人形が斧を振り上げ、号令したところだ。


 ルビア軍の隊列へ、魔物が空から襲いかかる。

ルビアの兵士たちは果敢に戦うが、そこへ鎧人形に率いられた一団が突入する。


「第一から第三部隊は新手を押し潰しつつ反転!

 既存勢力に対処せよ!

 第四隊以降は城へ撤退!」


 ガイルは張り裂けんばかりの怒号を放った。


 戦場にいるルビア軍の半数以上が撤退を開始した。

残る三部隊およそ六千は、撤退を支援する。

残る最精鋭の三部隊は、圧倒的に不利でかつ極めて異様な状況であっても、全く怯むことなく奮戦する。


 ガイルも自ら剣を振るい、奮闘した。

齢五十に近く、若い頃のようにはいかないが、しかし普段から鍛えた剣の腕はまだ現役だった。


 夜が明けたが、雪が次第に激しくなり、視界は悪くなる。

程なく周りがよくわからなくなるほどの吹雪になる。


 ガイルは懐から小さな笛を取り出し、それを力一杯吹いた。

彼は何度も笛を吹き、真っ白な戦場を走り回る。

何かの影を見ては、


「剣!」


と叫ぶ。

返事がなければ斬りつけ、


「兜!」


と返事があればやり過ごす。

吹雪の中で戦う合図だった。


 また笛は、戦場離脱の合図だった。

何せ逃げる。

吹雪の中で戦うより、バラバラに逃げた方がいい時もある。

今のように圧倒的不利な状況では、吹雪は味方だった。

ましてやルビア軍は、雪原の軍である。


「あの城にボルス殿がいれば、十五日、あるいは二十日程度は大丈夫だ」


 そうすればトルキスタ聖教から、あの若造の言葉通りならば、何らかの支援があるはずだ。

自分が死んでも、王城の防備だけならボルスの方が優れている。


 老いた病の母は恐らく、魔物に喰われて死ぬだろう。

妻や二人の息子はどうか。

殺されない限り、彼らはきっとやっていける。


 きっとやっていける。


 涙が出た。

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