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魔帝  作者: 松本 力
北の竜
151/192

北の竜 6

「力よ」


 鎧人形はそうつぶやく。


 北の竜ガイルに奇襲はない。

鎧人形は、その伝聞を知っていた。


「奇襲は、予測できる。

 予測された奇襲は、無惨な結果となる。

 奇襲などしなくても、十分な準備があれば勝てる。

 それは兵数であり、地の利であり、兵糧であろう。

 奇襲や奇策が必要とすればそれは絶体絶命で、起死回生を狙う以外にすべがない場合だけであり、そもそも我々は、そうならないように日々準備し、努力研鑽しなければならない。

 それにも増して我々が目指すべきは、戦わずに勝つという姿である」


 鎧人形は、ガイルのこの思想を、半ば尊敬しつつ、半ば馬鹿にしていた。


「例え理念は正しくとも、戦争に勝利することこそが軍人の名誉であり、領土の拡大による耕作地と資源の確保こそが国家発展の基本だ。

 軍人の仕事とは、そういうものだ。

 道徳や理念を国家繁栄や勝利よりも優先するから、ルビアはいつまでたっても本当の大国になり切れぬ」


 鎧人形は魔物の群に向き直り、その巨大な戦斧を右手で高々と掲げた。


「化け物ども、栄光とは何かわかるか。

 英雄とは何かわかるか。

 それは、勝利によってもたらされる。

 勝利こそは全ての源泉であり、我々は今より、北の竜の兵どもに力を見せつけ、踏み潰し、そして華やかなる勝利を勝ち取るであろう。

 これから行う進撃は、勝利への進撃に他ならぬ。

 進め、そして敵を食らい尽くせ!

 むさぼる自らを褒め称えよ。

 そして自らを、英雄たらしめよ!」


 魔物達がどれほどそれを理解しているのかはわからない。

しかし、鎧人形の号により、魔物達の意気は否が応でも高揚した。


「殺せ、殺せ、食らえ、食らえ」


「殺したら英雄うぅぅきゃきゃきゃ」


「そうだ、魔王にも供物を捧げねば。

 魔王に喜んでもらえたら、もっと奴隷どもを増やせるかもなぁあひゃひゃ」


 鎧人形は満足だった。

化け物どもが七百ほども並び、それを自分が率いている。


「俺は、やはり将軍だ」


 鎧人形はふたたび、雪原の遙かに陣を張るガイルの軍勢に向き直った。


 夜でも月光が、戦場を美しく彩っている。

彼はそれを、美しいと感じた。


「者共よいか、ここから我々は修羅に入る!

 目の前に現れるすべての者を、迷いなく殺戮せよ!」


 魔物の群れから、おぞましい地鳴りのような喚声が上がる。


「進めえぃ!」

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