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魔帝  作者: 松本 力
北の竜
150/192

北の竜 5

「城へ撤退し、城の兵力三万と防衛兵器をもって敵に当たるのを基本とする。

 すでにボルス殿には伝えてある。

 敵勢力の増員がなければ、城より打って出て撃退するが、まずは安全を基本とする。

 先程各地の兵を集結させるべく伝令を走らせたが、次の会戦までに間に合うのはおそらくなく、二日以内が四千だ。

 各国からの援助も視野に入れている。

 過去の経験をかんがみて思うに、これはおそらく国家存亡の危機だ。

 少なくともその程度には、異常だ。

 諸君にはそのつもりで、決死の戦いを期待する。

 なお、激突時の先鋒および退却時のしんがりは、私の直下部隊三千が務める」


 淡々と、いささかも動じたところもない様子で、ガイルは説明した。


「しかし将軍、閣下の身に何かあれば、軍の統率が保てません」


 誰かが心配そうに意見する。


 だがガイルは、険しく皺深い雪焼けの細面を、少しほころばせて答えた。


「なに、私も死にたくないさ。

 君らを死なせるわけにもいかない。

 そのために城へ退くんだ。

 ボルス殿が迎えてくれる。

 全軍、決死で戦って、生きて帰ろうじゃないか」


 部下達がこんなガイルの姿を見たのは、初めてだった。

いつも険しい顔しか見たことがない。

非常に厳しい上官であった。

それだけに、穏やかな様子に部下達はむしろ奮い立った。


 夜。


 雪の戦場は急激に冷え込んだ。

ガイルの陣営では至る所に火がくべられ、暖と明るさを確保している。


 四日後には満月を迎える。

辺りは月光に照らされ、雪がそれを反射し、明るい。

これほど晴れが続くのは、何年ぶりかである。


 魔物の軍勢が雪原の彼方で黒々とうごめくのが、実に不気味だ。

たまに叫び声も聞こえてくる。

雑兵の集まりであったなら、それだけで逃亡する者も現れるだろう。


 しかしガイル率いるルビア兵は、高い士気を保ったまま、整然と戦いの準備をしていた。


 その様子を眺めながら唸るのは、魔物の群れを率いる鎧人形だ。


「化け物ども、見てわかるか。

 実によく鍛えている。

 あれが、北の竜だ」


 雪原の遥かに整然と居並ぶ篝火は、芸術的でさえある。

左右対称で雪原を包囲するように陣を張っている。

厚みはさほどでもないが、一点集中の突撃に失敗すると包囲され、すりつぶされるだろう。

ルビアの兵は精強だ。

突破は容易ではない。

おまけに敵将がガイルであれば、奇襲は難しい。

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