氷の女神 4
町を出てしばらく歩く。
冬だった。
毛皮を調達してそれで寒さをしのいだ。
それにしてもこの日は、酷く冷え込んだ。
やがて吹雪になった。
彼は道ばたの岩陰に隠れ、夜を過ごすことにした。
木ぎれを寄せ集め、火をおこし、暖を取る。
火の側で、彼はうとうとし始めた。
すると、不意に声がした。
「可哀想な人、それほど戦いたいというのが、私にはわかりません」
はじめての経験だった。
彼は熟睡していても人の気配に気づく様な人間だった。
だというのに、その声の主は、彼に気配を感じさせなかった。
彼はとっさに大剣を抜き、声の主を斬ろうとした。
だが、剣がその頭蓋を割る寸前で、彼の剣は止まった。
それは、女だった。
憐憫に満ちた藍色の目で、シ・ルシオンを見つめている。
全く動じた様子がない。
「私はリーファ。
あなたの力を借りたいのです」
その女は、シ・ルシオンが今までに見た全ての女より美しかった。
透き通るように肌が白く、この吹雪の中だというのに薄い衣を軽くまとっただけの、肌もあらわな姿だ。
紺色の美しい髪が風に揺れる。
「戦か?」
「……そうであれば、まだこの地上は救われるのでしょうけど」
女、リーファは、少しうつむき、恐怖に歪んだ顔をした。
「放っておけば、多くの人が死にます」
「何万人もか?」
「桁が違います。
四つほど」
「なに?」
シ・ルシオンには、絵空事のように思えた。
もしかするとこれは、夢なのかも知れない。
そう考えた方がしっくり来るように思えた。