北の竜 4
「アバザン、戦闘参加中および当基地に駐屯中の各部隊長へ伝えよ。
この宿営基地を放棄し、本城へ軍を動かす準備を始めよ。
今日はこのままなんとか持ちこたえ、明日移動作業を開始する」
ガイルはまた別の副官を呼んだ。
「城のボルス殿に伝えよ。
城内全兵を第一級防衛配備に。
また全砲台および投石機、油樽、石弓、火矢、毒矢の準備を行うべし。
また速やかに全市民に対して城内へ避難開始を指示すべし。
市民の持ち物は極力減らし、食料、衣料は城内の備蓄を使用すべし。
決戦は長くても十日程度と予想。
老人や病人など、動きのとれぬものは…」
ガイルはここで言葉を詰まらせた。
彼は最後の言葉をなかなか言えない。
唇は震え、目が赤くなり、涙があふれた。
「例外なく見捨てよ」
ガイルは敢然と頬を上げ、その頬を涙が伝った。
やがて魔物の群れが陣容を整えた後、一部の魔物が先走って小競り合いを起こした他は、戦闘は一旦膠着した。
天には相変わらず、黒い円がぽっかりと巨大な口を開いている。
まだ夕暮れには少し早いが、太陽は隠れ、夜のようだ。
ガイルはその円を睨み、様々な策を考えては、間断なく周囲に指示を出していた。
また、部下の将校達の伝令が次々に現れ、様々に提案を出しては、許可を得ている。
ガイルは、魔物達は組織的な力押しで来ると踏んでいた。
魔物一体は、恐らく彼の兵三十に匹敵するだろう。
空を飛ぶものもいる。
訓練基地に駐屯している兵はおよそ二万。
内、後方支援などで戦闘に参加できない兵が四千余り。
対する魔物の群れは、ざっと七百はいるだろうか。
純粋に数が足りない。
敵将はあの鎧人形。
やや強引で力任せにも見えるが、しかし引き際を知っていて、化け物どもを組織化できるだけの統率力もある。
バラバラであれば取るに足らないが、あいにくそうではない。
ガイルは部隊長六名を集め、方針を出した。