北の竜 3
しかししばらくすると、少し離れた場所から整然と統制のとれた部隊がやってきた。
人々を順次保護し、魔物にも数十人単位で個別に撃退し始めた。
その手並みはきわめて鮮やかで、また兵達もよく訓練されていた。
徐々に魔物達は散り散りにされ、順に倒されていく。
空を飛ぶものも矢で落とされた。
鎧人形は理解した。
「化け物ども、一旦集結せよ!
あの部隊は将軍ガイルが直々に率いている!
名将と言われる者を侮るな、痛い目を見るぞ!」
しばらく魔物達は、鎧人形の声を無視していたが、しかし人間達が意外な抵抗をし、徐々に劣勢に追いやられる。
「馬鹿め、所詮は畜生か」
鎧人形は、数十人に取り囲まれ、ばたばた暴れるだけの巨大な双頭の狼のところへ、地響きをたてて近寄り、斧を振るった。
一撃で二十人ぐらいの兵士が吹き飛ぶ。
「退かぬか、愚か者!」
鎧人形は猛烈に吠え、後方を指差した。
助けられた魔物は、その怒気におののき、ほうほうの体で引き下がった。
他の場所でも、次々に魔物達が囲まれている。
鎧人形はそれらを順に助け、凄まじい迫力で後方に下がらせた。
その様子を遠くから馬上にて見ているのは、真っ赤な鎧と純白のマントに身を包んだ、将軍ガイルである。
「あの鎧の化け物、ただ者ではない」
誰であれこの事態を予測できるはずもない。
だというのに彼は、予測していた事態のように冷静に、数千の部隊を整然と指揮していた。
彼に奇襲が効かないことは有名だった。
彼の軍事行動は常に緻密に考え抜かれ、ミスが少なく、攻めは雷撃のごとくであった。
今回の異常な事態についても、この上なく的確な対処をしている。
普段からいかに準備をしているかがうかがわれた。
「フラグヌイ、例の狼煙を上げる用意を進めよ」
ガイルは副官の一人にそう命じた。
副官はすぐに馬を走らせた。
「恐らくまだ、降ってくる」
彼は天を覆ったままの黒い円を、険しい顔でじっと見た。
魔物達は、徐々に鎧人形の統率に従うようになっていく。
統率がとれた兵団は強い。
それは今、ガイルがまさに示したことである。
あの鎧の化け物が何者かはわからないが、かつて遭遇した敵将の中でも、指折り数えられるぐらいの優れた者ではないかと感じられた。