槍 19
翌日、ほとんどの参加使節を見送り終わったのは、夕方日が落ちる頃だった。
日が長くなってきている頃だから、夜と言っても良い時間帯である。
ローブは地下の自室に戻ってすぐ、フォルタを呼んだ。
若い補佐官が部屋に入ると、ローブはワインのボトルとグラスを用意していた。
「エッセラーだ」
有名なワインの産地である。
エッセラーは参加国の一つグノイムの地方都市である。
土産だった。
ローブがフォルタに酒を勧めたのは、初めてだった。
住まいとも言えるこの部屋で呑んでいるのさえ、見たことがない。
たまにふらりと遊びに出て帰ってこないことはあるようだが、フォルタにはあまりそんな姿を見せたことがなかった。
「いただきます」
フォルタがそう言うと、ローブはニコリと笑った。
笑うととても華やかで、吸い込まれそうに感じる。
二人はグラスを掲げ、乾杯した。
「色々助かった。
まぁほんと、大変だった」
ローブはワインを多少下品にグイと飲み、嬉しそうに顔をしかめた。
「こういう酒はたまんねぇな」
「僧侶のくせに」
「どうせ俺は破戒僧さ」
ローブはワインをグラスの中で回しながら、高い声で笑い、粗末な木の椅子の背もたれに体を預け、天井を仰ぎ見た。
「実際こんな旨い酒を飲めるのは、もう今日が最後かもしれねえな。
恐らくそう遠くない将来、化け者共との戦争が始まる」
彼はそこでしばらく言葉を止めた後、
「嫌だな」
と呟いた。