槍 18
「なに?」
ゴートは眉間にしわを寄せ、鋼の巨馬を驚いて見上げた。
「それをなぜ知っている!
いまだにオデュセウスの隊を全滅させたのは、ホルツザムやバルダの政府にすら誰かわかっていない筈だ。
ましてやシ・ルシオンなど」
そう叫ぶゴートを見て、ローブは少しおどけて笑った。
「彼は、『あの』オデュセウスです。
この鋼の馬車となった今は、二日で大陸を横断します。
今のトルキスタ聖教には、そういう力があるのです」
ゴートは心底、震撼した。
トルキスタ聖教はシ・ルシオンのみならず、嘘かまことか中央大陸一と言われる突撃隊長を擁している。
もしトルキスタ聖教がベイシュラに牙をむけば、果たして抑えきれるか。
いつの間にこんな力をつけていたのか。
一体自分たちは、長年何をしていたのか。
ゴートは目の前にいる青年が、一体どんな世界を見ているのか、想像することさえ恐くなった。
「ゴート殿」
ローブの不意な呼び掛けに、ゴートは驚いた。
ローブは笑っている。
その全く殺気のない様子が、むしろ怖かった。
「是非とも、ご協力ください」
ゴートは苦い顔で頷いた。
その後二日間の会議は、ゴートとガイルの二人の大物が積極的に協力姿勢を打ち出したことで、スムーズに運んだ。
主な議題としては、危機発生時の軍の受け入れ体制や、地図の共有に関する事項であった。
初日は不穏な空気が強かったが、最終日は少なくとも表面上、和やかに終わった。