槍 17
ゴートはローブに着いていくことにした。
若干名の護衛を伴い、二人は教会の裏手へ回った。
あまり人気のない場所である。
そこには、漆黒の巨馬が佇んでいた。
鋼でできたその美しい雄姿に、ゴートらは息をのんだ。
また軍人である彼らは、即座にその兵器としての威力を理解した。
「この巨馬は、魔導師マイクラ・シテアにより作られ、ある人の魂が込められ、その人の意思により動く、魔法の戦車です。
誰だと思います?」
ローブは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
巨馬はがしゃりと動いた。
眼孔と、額の宝玉が、やけに禍々しく輝いた。
ゴートらは驚いて後ずさった。
「彼は一度戦場で死にました。
しかしマイクラ・シテアの魔導により、この姿で蘇りました」
「馬鹿な」
とゴートは吐き捨てたが、しかし目の前で起こる事実が、あまりにも現実感が強すぎて、あるいは紛れもなく現実であり、否定しきれなかった。
「ゴート殿、ホルツザムとバルダで行われた、二度のザーグ砦攻防戦を、ご存知ですか?」
ローブの問いに、ゴートは意外な顔で頷いた。
「無論だ。
一度目はドバイル将軍の奇略にバルザム将軍が翻弄されたが、先日行われた二度目は、ドバイル将軍が死んで不在の砦が落ちた。
特に先方突撃隊の決死の渡河が、大きかったと聞いている」
「だそうだが、その様子は実際、どうだった?」
ローブは巨馬に問いかけた。
巨馬はしばらく黙ったままだった。
が、
「頼むよ、君が誰かを理解してもらわねば、意味がない」
と、ローブににこりと笑われると、渋々巨馬は語り始めた。
ゴートらは、直接頭の中に響く声に多少面食らったが、その歯切れが良く精悍で美しい声に、すぐ違和感を意識しなくなった。
「そうですね、まさに死を覚悟した上での突撃でした。
私は前夜、バルザム閣下からその作戦を拝聴したとき、死を予感しました。
実際渡河の際、川は馬の腹が浸かる程度には深かったでしょうか。
私も部下達も、随分難渋しましたし、矢よけの盾を構えていても、股に矢が刺さりました。
渡河できたのは、単に運が良かったと言えるでしょう。
その後、まもなく城門は破られ、およそ勝負は決まりました。
ですが、結局私と部下達は、バルダ守備軍総帥のキース殿を捜索中、砦の司令塔で、シ・ルシオンに斬られました」