槍 16
不意にゴートが、低く殺気のない声で尋ねた。
ローブは少し驚いた。
あわてて言葉を探し、応えた。
「私のような孤児が、少しでも減れば」
突然涙がこみ上げ、ローブは目を右手で覆った。
言葉が続けられない。
相手は大国ベイシュラの大将軍ゴートである。
自分の感情を見せていい相手ではないはずだった。
だが、抑えられなかった。
その間ゴートは、何も言わずじっと待っていた。
やがてローブが落ち着いた頃合いを見計らって、ゴートは穏やかに言った。
「私は軍人だ。
君のような孤児を、無数に生んできた人間だ。
シ・ルシオンも同じだ。
私もわかっておるのだよ。
戦場では、敵を殺さねばならん。
強欲だったり勘違いしている連中はともかく、軍人も人。
とかく軍人は、人であるが故に、自分を正当化したくなるし、従って戦争を肯定する。
だがね、戦争はやはり、良くないのだよ。
殺すのも、良くない。
殺されるのも、良くない。
私はあのシ・ルシオンによって、弟を殺された。
たまたま居合わせた一二〇名の中隊が、瞬く間に全滅だ。
弟はその隊長だった。
戦場で起こった結果であっても、やつを許せない。
弟の妻や幼かった子供達は、私が告げると、随分泣いたよ」
ゴートは声を震わせ、目を赤く腫らした。
鼻を少しすすった。
「さあもう、私のことはいい。
私は君のことを、少し理解できたように思う。
我が国を思えば、君たちトルキスタ聖教からの協力を得るのは、おそらく正しい道なのだろう。
ガイル殿にも、私から口添えをしておこう」
ローブはゴートの厳つい顔を仰ぎ見、再びうなだれ、彼のごつごつした手を握った。
「シ・ルシオンをあの場に引き出したのは、トルキスタ聖教の軍事力を示すためでした。
私の、いわば小手先の戦術レベルの目的です。
改めてお詫びいたします。
そうだ、それともう一つ、実は是非ご覧いただきたいものがございます」
ローブはそう言って、ゴートに笑った。
笑うと少年のようで、実に華やかだった。
ゴートは吸い込まれそうな心地よい印象を持った。
「うむ」