槍 14
ローブは恐縮した態度で進み、
「失礼いたします」
と断って、腰をかけた。
「君の意図を聞こう」
「ありがとうございます」
再びローブは頭を下げ、しばらく両手の五指を合わせ、考えた後で、おもむろに喋り始めた。
「そもそもの発端は、バザ大聖堂で起こった、ご存じでありましょう、二一年前の惨劇です。
先ほど会議の場でも申し上げた通り、あの事件をたった一人で起こした、魔導師マイクラ・シテア。
この者はまだ生きており、各地で活動しております。
その目指すもの。
それは、ゴート殿の国ベイシュラで、ウラガヌの嵐と伝えられている、千年前の騒乱です」
ゴートはそれを聞いた途端、ぎょろりと目を光らせた。
「トルキスタ聖教および当時のこの大陸は、その争乱というか、災禍の舞台であったため、資料や伝承も数多く残されています。
トルキスタ聖教では、ブサナベンの災禍と言われています。
荒唐無稽な宗教家の戯れ言と捉えていただいても構いませんが、千年前、魔界との契約により力を得た魔導師ブサナベンが、世界を破壊せんと引き起こした災厄。
結果的にトルキスタの聖者と言われる三人の英雄により、事態は収束したと言われていますが」
ローブはしばらくうつむき、言葉を探した。
「そうですね、まずは例の、バザ大聖堂での事件の真相を申し上げましょう」
これを聞くとゴートは、ぎょろ目をさらに見開いて、身を乗り出した。
「ほう」
ローブは少しだけ右を向き、両手の五指を付けたり離したりしながら、ゆっくりと話し始めた。
「千年前の騒乱が一通りの収束を見た頃、大賢者ソルドは、バザ大聖堂の地下に、ブサナベンから奪った魔界との契約書のようなものと、自らの手による解説書を封じました。
マイクラ・シテアがバザ大聖堂を襲ったのは、まさにその契約書を奪うためでした。
その後の大虐殺は、ただの遊び。
マイクラ・シテアの自己顕示欲だったのではないかと、私は想像しています。
しかし、この事件により、あれほどの惨劇をたった一人で起こせた人間が、より強力な力を持つに至ったのです。
で、封印の中にあったその他の書は、運良くというか、何がしかの罠かはわかりませんが、残りました。
私はその数百に上る書を解析し、これから起こるであろう事態への準備を、かれこれ二十年にわたり行っています」