槍 13
「取りあえず俺は、ゴート殿に詫びを入れてくる。
旦那、もしかすると呼ぶかも知れねえから、その時は来てくれるかい」
「ああ」
シ・ルシオンは一旦部屋に戻り、ローブは一人、護衛も連れず、ゴートの控え室に向かった。
重い気分だった。
「嫌だが、俺がやるしかねぇか」
彼の脳裏にふと、二人の顔が浮かんだ。
一人はザーグ砦のドバイル、もう一人はバザのスラムにある教会のフェリスだった。
「俺にできる最善を尽くして、あとは祈るしかねぇ」
ゴートの控え室前に着いた。
重厚で価値ある古さが漂う木彫りの扉だ。
ローブはノックしようとして戸惑い、両手の平で頬を何度か叩く。
そして再び覚悟を決めて、扉を叩いた。
「教会のローブでございます。
先程の、件で、お詫び申し上げたく、推参いたしました」
しばらく反応がなかったが、やがて、
「どうぞ。
開いている」
という、少し弱々しい声で返事が返ってきた。
ローブは、普段のどこか軽薄で高飛車な気配を消し、実に清潔で誠実な立ち居振る舞いで、ゴートの部屋に入った。
「先程は、大変なご心痛を浴びせてしまいました。
改めてお詫び申し上げます」
開口一番、ローブはそう告げ、トルキスタ聖教の典礼作法に従い、敬意ある一礼をした。
部屋の奥のソファに座っていたゴートは、腕組みで背もたれに寄りかかったまま、目だけをローブに向けた。
「今度はどういう企みだ」
低い声でゴートは言う。
その声も仕草も、敵意と不信感に充ちている。
「企みはありません。
ただ、事がこう運んでしまった以上は、ゴート殿には本当のことをお話すべきであると考え、参った次第であります。
敢えて企みがあるとするならば、小手先の交渉術ではなく、今回の会議を開催した私の真意になろうかと存じます」
しばらくゴートは反応しなかった。
何か考えているようだった。
だがやがて彼はローブに向き直り、
「掛けたまえ」
と、自分の向かいの席を勧めた。