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魔帝  作者: 松本 力
137/192

槍 13

「取りあえず俺は、ゴート殿に詫びを入れてくる。

 旦那、もしかすると呼ぶかも知れねえから、その時は来てくれるかい」


「ああ」


 シ・ルシオンは一旦部屋に戻り、ローブは一人、護衛も連れず、ゴートの控え室に向かった。

重い気分だった。


「嫌だが、俺がやるしかねぇか」


 彼の脳裏にふと、二人の顔が浮かんだ。

一人はザーグ砦のドバイル、もう一人はバザのスラムにある教会のフェリスだった。


「俺にできる最善を尽くして、あとは祈るしかねぇ」


 ゴートの控え室前に着いた。

重厚で価値ある古さが漂う木彫りの扉だ。

ローブはノックしようとして戸惑い、両手の平で頬を何度か叩く。

そして再び覚悟を決めて、扉を叩いた。


「教会のローブでございます。

 先程の、件で、お詫び申し上げたく、推参いたしました」


 しばらく反応がなかったが、やがて、


「どうぞ。

 開いている」


という、少し弱々しい声で返事が返ってきた。


 ローブは、普段のどこか軽薄で高飛車な気配を消し、実に清潔で誠実な立ち居振る舞いで、ゴートの部屋に入った。


「先程は、大変なご心痛を浴びせてしまいました。

 改めてお詫び申し上げます」


 開口一番、ローブはそう告げ、トルキスタ聖教の典礼作法に従い、敬意ある一礼をした。


 部屋の奥のソファに座っていたゴートは、腕組みで背もたれに寄りかかったまま、目だけをローブに向けた。


「今度はどういう企みだ」


 低い声でゴートは言う。

その声も仕草も、敵意と不信感に充ちている。


「企みはありません。

 ただ、事がこう運んでしまった以上は、ゴート殿には本当のことをお話すべきであると考え、参った次第であります。

 敢えて企みがあるとするならば、小手先の交渉術ではなく、今回の会議を開催した私の真意になろうかと存じます」


 しばらくゴートは反応しなかった。

何か考えているようだった。

だがやがて彼はローブに向き直り、


「掛けたまえ」


と、自分の向かいの席を勧めた。

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