槍 8
「教会の経営に不安はないのか」
とロドが事前に尋ねたが、
「教会の備蓄資産を投資するだけですよ。その価値はあります」
と自信満々で言った。
まさかその発言に根拠らしい根拠が無いなど、周囲が想像はできなかった。
教会内部で激しく抵抗したのは、自治区の財務を管理しているベンハーだったが、あくまでも膨大な備蓄を注ぎ込むだけだということと、教会勢力と収益の拡大も説いたため、説得に成功した。
何もわからない老いた教皇は、熱心な再三の説得で頷いた。
無論各国の使節達は、そんなことは想像もしていない。
ただ単に、
「トルキスタ教会は、想像より遙かに力を持っている」
と、特段の疑いは持たず、教会に対する認識を大きく改めて警戒心を強めただけだった。
「狼煙は、どう使う?」
中年のずんぐりした厳つい、濃い褐色の肌の男が尋ねてきた。
明らかに歴戦の猛者とわかる出で立ちである。
南方の大国ベイシュラ、「猛牛」と呼ばれるゴート元帥であった。
見た目通りの猛将であるが、しかし常に大規模な戦略と緻密な戦術も駆使する、世界屈指の名将である。
だがローブは、全く怯まない。
想定の範囲内だった。
「そうですね、大地震や天変地異は勿論、例えば皆様もお聞きお呼びかと思いますが、二十年前、バザ大聖堂で起こった惨劇のような事態にも、有効ではないかと考えております
現に」
ここでローブは深くため息をつき、そしてもう一度、敢然と頬をあげた。
「バザ大聖堂での惨劇をたった一人で起こした者は、まだ生きています」
この一言は、会場の全員を震撼させた。